イチオシレビュー一覧

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「オソロシ」は、イツ、も、あな、たノ、傍、ニ……

  • 投稿者: 三羽高明   [2024年 08月 14日 10時 37分]
帰り道にまつわるホラー作品。前半は、不運が重なっていつもより暗い道をビクビクしながら歩く「あなた」について軽妙洒脱な調子で語られています。

ところが、中盤から語り手の口調にじわりとした狂気がにじみ出てきます。あまりにもさりげないため、覚えるのは軽い違和感のみ。読む者の心に宿るのは、「今のは何だったんだろう?」という微かな疑問だけでしょう。

ここからが書き手の妙技の見せ所。初めは小さかった違和感は徐々に増幅していき、気づいた時には、読者は怪異の住まう世界に見事に誘導され、えもいわれぬ恐怖に絡め取られているのです。

静かに狂ってゆく文体に背筋が寒くなる怪談噺。文字で鑑賞することに意味を持たせた作者の怪腕っぷりに痺れます。
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