イチオシレビュー一覧

家紋武範様主催の「夕焼け企画」参加作品です。

７５１７字の純文学。現実世界恋愛要素もあります。

ヒロインは資産家東竹家の令嬢志摩子さん。実は彼女は養女で両親を亡くし、伯父に引き取られた身です。

東竹家は資産家であるが故、令嬢は政略結婚の駒とされます。ライバル西竹家の１７歳年上の男性とのお見合いが決まっています。

しかし、志摩子さんには心を寄せる男性がいます。彼女が一人になれ、心を休められる場、勤務先の東竹百貨店の屋上。そこで出会う西竹百貨店の屋上にいる男性。

言葉を交わしたことはありません。離れている別の建物の屋上ですから。それでも志摩子さんと男性は身振り手振りで心を通わせます。

「夕日に佇む、知らないあなた」と。

それでも志摩子さんは気持ちを振り切り、お見合いに臨みます。すると……

けして幸せではなかったけど懸命に生きたヒロイン。予想外の幸せが待っていました。

　資産家の娘である志摩子。
　彼女は幼い時に両親を亡くし、幸せであった生活を失った彼女は心が温まることはなかった。
　そんな彼女の役割は家のため政略結婚。　
　相手は１７歳も年上。
　それでも彼女は何もかもがどうでも良いことであった。
　ただ少しだけ気がかりなことがあった。
　たまに逢う名前すらも知らない男性が気になっていると言うことを。

　彼女の今までの生き方が夕焼けの寂しさと重なり、また気になる人と夕焼けを眺める時が夕焼けの温かさや美しさと重なります。
　彼女の心の移り変わりの描写が大変美しく、また展開も読んでいたら分かるのですが、それでもハラハラせずにはいられません。
　このノスタルジーを感じさせる素敵な物語を今一度ご覧ください。

見渡す限りオレンジ色に彩られた世界は、ひどく幻想的で人を感傷的にさせるものですが、それが陽が沈みゆく刹那の夕暮れ時とくれば尚更でしょう。

資産家である東竹家の娘である志摩子は、中学生の頃に両親を病気で失い、母の実兄に引き取られたという過去があります。
幸せだった両親との生活からは何もかもが一変した堅苦しい暮らしの中、志摩子は己の生き方を見失うのですが……。

勤務先で出逢った名も知らぬ相手と共有する夕暮れ時の逢瀬。
その言葉も交わせない相手に惹かれていく志摩子でしたが、そんな彼女に意外な相手との見合い話が降って湧いて……。

セピア色の世界で語られる切ない恋慕の情が鮮やかな物語です。
冷え切った心を温めてくれた夕陽の世界での邂逅が、志摩子の想いをどの様に変化させたのか……。
それを自らの目と心で御確かめ頂ければ幸いです。
鮮やかなオレンジ色の世界で皆様の御来訪を御待ち申し上げております。

　いま私の目がうるんでいるのは、このお話に感動したからではありません。えぇ、ただ夕日がまぶしくて目に沁みただけです。なにか瞳から溢れて流れ出していますけれど、もちろん涙なんかではありません。

　物語の後書きにも書いてあります歌川　詩季さんのエッセイと併（あわ）せてお読みいただければ、さらに味わい深い読後感を感じられると思います。

　この素敵なお話についてもっと語りたいのですけれどなぜだか涙が止まらないので、今日はこの辺で。