イチオシレビュー一覧

▽レビューを書く

旅立ちは、舞い上がる桜の花びらとともに──

桜の花が散り始めたある日、小さなパン屋さんは閉店を迎えます。
店主は、夫亡きあと一人で店を営んできたおばあさん。
常連さんやお友達がやってきて、閉店を惜しんでくれますが、彼女の心はおだやかなのです。
だって今日は旅立ちの日でもあるのだから──

老若男女、誰が読んでも心の琴線にふれてくる物語ってありますよね。
この作品がまさにそれだと思います。
ちょうど1年前の今頃に投稿され、そのときも読んで涙が出ましたが、1年後の今日再読して感動がさらに深まりました。

あたたかくて切なくて、しかも親しみやすい雰囲気は、作者様の得意とする童話の世界と通じるように思えます。
桜の季節に、あなたもぜひ読んでみてくださいね。

忘れられないカレーパンの味

この場所を通りかかると、いつも思い出す。
幼い日、幼稚園の帰りに、よく母と立ち寄ったパン屋のことを。
優しいおばあさんが一人で営んでいたお店。
大好きな顔つきパンを買ってもらって、おやつに食べるのが楽しみだった。

卒園式の帰りに、

『おばあちゃんもパン屋さんを卒業するの』

と言われたことを覚えている。
その時もらって、たった一度きり食べた温かなカレーパンの味は、何度も食べた顔つきパンよりも鮮明に残っている。
きっとそれは、おばあさんがあの店でパンを焼き続けてきた、五十余年もの想いが詰まっていたからだろう。

これはおばあさんしか知らない────
あの桜舞う卒業の日に、古いパン屋で起こったささやかな物語である。

どこかの街のパン屋さんが舞台のハートフルな「卒業」の物語

  • 投稿者: 三羽高明   [2024年 04月 28日 08時 33分]
あるパン屋さんの最後の一日を描くお話。主人公は、夫に先立たれ、女手一つで店を切り盛りする高齢の女性です。

常連客や家族は主人公の決断に戸惑いを隠せませんが、ちょうど桜が散り始める季節ということもあってか、閉店を「卒業」と表現する主人公の表情は穏やかそのもの。パン屋と共に歩んだこれまでの日々を振り返りながら、満ち足りた気持ちになっていました。

そんな折、店に最後の客が現われます。それが誰なのかに気づいた時、主人公は有終の美を飾るある行動を取るのでした。

決して平坦ではない人生をがむしゃらに駆け抜けた女性の生きざまと、散り際すらも優美な桜のコントラストが美しい作品。少し切なく、それでも「お疲れさまでした」と言いたくなるラストシーンは必見です。

いくつになっても「卒業」という青春はあるのですーー

∀・)こんばんわぁ♪♪♪おそらくこれまでポケモンの卒業を2~3度は宣言したと思うのですがアラフォーにして内心また返り咲きしようとしていまぁ~す♪♪♪いでっちでぇ~す♪♪♪


∀・)本作は桜舞い散る春に「卒業」を迎えたある御方のお話です。学校を卒業する瑞々しい幼いコ若いコのお話ではありません。彼女は長年務めあげたパン屋をたたむ事にしました。御年80にもなったその身体は衰えがどうにも止まらなく……そんな彼女の「卒業」を描かれた本作なのですが、瑞々しい青春はそこにもあるのです。


∀・)素敵なバナーからはじまる美しい感動話。誰でもいつだって青春は味わえる。掌編小説ですが、本作を読んでそんな青春を感じてください、否、きっと感じられます。是非ご一読を☆☆☆彡

まためぐり来る桜の季節に想いを重ねて~愛しき旅立ちの刻~

一生とか人生とか……。
言葉にすれば仰々しく感じてしまうが、平凡な日常を淡々と積み重ねた結果だと思えば、ひどく愛おしくなるから不思議だ。
おそらく、この物語の主人公もそうだったに違いない。

夭逝した最愛の夫に代わり、50年にも亘ってパン屋を営んできた。
その長い年月の中で、我が子や顔馴染みになったお客様の成長に触れて喜び、そして数多の旅立ちに涙する事もあっただろう。
そして、自らの旅立ちの刻を察した彼女は……。

桜の季節は必ず毎年巡りくるものだ。
その光景を美しいと感じる事ができるのならば、何気ない日々を繰り返すだけの人生にも相応の輝きを見出す事ができるのではないでしょうか?
いつか迎えるであろう旅立ちの時に「いい人生だった」と胸に刻みたい……。

そんな事を思わずにはいられない秀作です。
桜花爛漫の素敵な季節に花開いた旅立ちの物語。
じっくりと御堪能頂ければ……そう願って已みません。

桜舞う卒業の季節に、人々は旅立っていく。

主人公は女手ひとつで50年以上パン屋を営んできました。
元々は夫とふたりで開業したパン屋。しかし、彼は若くして亡くなってしまい、彼女は息子を育てながら必死でここまで店を続けてきたのです。
しかし最近は体力の限界を感じる日も多く、桜が満開の或る日、遂に彼女はお店を閉めようと思い立ち……。

人生には様々な旅立ちがあります。
それはパン屋さんを訪れるお客さんも一緒で、私たちはこの作品を読みながら自分の旅立ちに思いを馳せるのです。
せつなく美しく、そしてあたたかい物語のラストシーンは感動必須。
桜舞う卒業の季節に、是非読んで頂きたい作品です。

ただひたすらに美しい「旅立ち」の物語

  • 投稿者: 歌池 聡   [2024年 03月 30日 09時 07分]
夫を亡くして50年以上、ひとりでパン屋を守ってきた女主人。そんな彼女の、いつもと同じようでちょっとだけ特別な一日を描いた掌編です。
わずか3000文字足らずの中に、彼女の半生がぎゅっと濃縮されたような物語が、とても美しい描写によって語られていきます。

そして「旅立ち」の時──。


自分の親も彼女と同世代で、いつ旅立ってもおかしくない年代ですし、自分自身ももう人生の後半戦です。
自分たちの時も、このように心穏やかな「旅立ち」を迎えられるよう、願わずにはいられません。


中高年の方はもちろん、若い方にもぜひ読んでいただきたい。間違いなく心に響く逸品です。
↑ページトップへ