イチオシレビュー一覧
▽レビューを書く何も言わずに、この世界にどっぷりとひたってほしい
- 投稿者: 石河 翠@4/29「運命の番を嫌う訳あり娘は拒めない」配信開始 [2024年 05月 27日 13時 10分]
短編版を読んで悶絶した方も多かったのではないでしょうか。連載版では、短編読了時に気になったその後のあれこれを存分に味わうことができます。もちろん、短編未読の初見さんも大歓迎!
先の見えない戦時下。物語の主人公チェリーは、姉の忘れ形見である幼い甥を抱えて途方に暮れていました。そこへとある貴族のご婦人が訪ねてます。彼女はチェリーに自分の息子と結婚するように提案してきて……。
短編版もあまりにも美しい物語でしたが、連載版も本当に素晴らしい内容になっています。物語に出てくる登場人物たちは、みんな少しずつ弱さを抱えています。どこか不器用で完璧ではないからこそ、そばにいて彼らの話に耳を傾けたくなるのです。
物語は一度完結を迎えましたが、短篇から長編で連載していただけたように、またいつか番外編(コンラッドのその後を!)を連載していただけたら……とお代わりをお願いしてしまいたくなる作品です。
先の見えない戦時下。物語の主人公チェリーは、姉の忘れ形見である幼い甥を抱えて途方に暮れていました。そこへとある貴族のご婦人が訪ねてます。彼女はチェリーに自分の息子と結婚するように提案してきて……。
短編版もあまりにも美しい物語でしたが、連載版も本当に素晴らしい内容になっています。物語に出てくる登場人物たちは、みんな少しずつ弱さを抱えています。どこか不器用で完璧ではないからこそ、そばにいて彼らの話に耳を傾けたくなるのです。
物語は一度完結を迎えましたが、短篇から長編で連載していただけたように、またいつか番外編(コンラッドのその後を!)を連載していただけたら……とお代わりをお願いしてしまいたくなる作品です。
皆さまも心に残る、大切にしたい作品には様々な要素があると思います。世界観の緻密さとか、主人公の好ましい性格とか、度肝を抜く展開だとか。
本作は、弱き者達(平民も貴族も)がギリギリのところで踏ん張って大切なものを守ろうと生き足掻く姿を、敢えて反戦の声を抑え静かに始まります。それが返って無常観をよりリアルに感じさせ、読者を作品の中に連れて行ってくれます。早い段階で登場する子爵未亡人の性格もあり、襟を正して読むべきかと身構えたところでこの未亡人の名台詞ですかされまして、この物語の私のイチオシ要素は作者様が織り成す合気道会話と未亡人に決定しました。
力の抜き方が軽妙でお洒落。絶対計算してるはずなのに悟らせないテクニックは鴨の水搔き?
いいえ、飛ぶ(白)鳥跡を濁さずどころか、明鏡止水に虹を架け百花繚乱の如き余韻であります。
本作は、弱き者達(平民も貴族も)がギリギリのところで踏ん張って大切なものを守ろうと生き足掻く姿を、敢えて反戦の声を抑え静かに始まります。それが返って無常観をよりリアルに感じさせ、読者を作品の中に連れて行ってくれます。早い段階で登場する子爵未亡人の性格もあり、襟を正して読むべきかと身構えたところでこの未亡人の名台詞ですかされまして、この物語の私のイチオシ要素は作者様が織り成す合気道会話と未亡人に決定しました。
力の抜き方が軽妙でお洒落。絶対計算してるはずなのに悟らせないテクニックは鴨の水搔き?
いいえ、飛ぶ(白)鳥跡を濁さずどころか、明鏡止水に虹を架け百花繚乱の如き余韻であります。
第一次世界大戦くらいの世界観で、家族を無くしたお嬢さんが甥っ子抱えてどんずまりになった所から、その甥っ子の縁で結ばれた人々と、ゆっくりゆっくり色々な情を深めて幸せになっていくお話。とにかく情緒が素敵。
読んでいて、主人公も、その家族も、周囲の人々も、時々出てくる嫌な人も含めて、この世界が丸ごと愛しくなる物語。
読み終わった後、あの人とあの人は今後どうなるのかとか、もし自分がこの世界に入っていけたらどこに収まりたいかとか、思いを巡らさずにはいられない作品です。
読んでいて、主人公も、その家族も、周囲の人々も、時々出てくる嫌な人も含めて、この世界が丸ごと愛しくなる物語。
読み終わった後、あの人とあの人は今後どうなるのかとか、もし自分がこの世界に入っていけたらどこに収まりたいかとか、思いを巡らさずにはいられない作品です。
離婚する「つもりだった」ふたりの、未来への物語
- 投稿者: shinobu | 偲 凪生 [2024年 05月 19日 13時 43分]
タイトルから分かるように、離婚をする「つもりだった」ふたりの物語です。
何故か?
それは、夫であるバーナードが、戦地にいる間に「結婚した」ことになっていたから。
妻であるチェリー側にも事情はあったのですが、バーナードがそれを知る由もなく、まず「文通」からふたりの交流がはじまります。
その手紙のやり取りは悲しいながらも軽妙なものでした。
やがて戦争が終わり、バーナードは生家へ戻ってきます。
そして、ついにチェリーと対面することになるのですが……。
架空の戦争でありながらも、だからこそ考えさせられる戦後の世界。
意思に反して結婚させられたふたりが、どうして離婚を選ばなかったのか。
ジャンルは異世界恋愛ですが、ヒューマンドラマとしても非常に読み応えのある物語となっています。
何故か?
それは、夫であるバーナードが、戦地にいる間に「結婚した」ことになっていたから。
妻であるチェリー側にも事情はあったのですが、バーナードがそれを知る由もなく、まず「文通」からふたりの交流がはじまります。
その手紙のやり取りは悲しいながらも軽妙なものでした。
やがて戦争が終わり、バーナードは生家へ戻ってきます。
そして、ついにチェリーと対面することになるのですが……。
架空の戦争でありながらも、だからこそ考えさせられる戦後の世界。
意思に反して結婚させられたふたりが、どうして離婚を選ばなかったのか。
ジャンルは異世界恋愛ですが、ヒューマンドラマとしても非常に読み応えのある物語となっています。
互いに顔も知らない妻と夫。
淡々とした手紙だけの交流でも、受け取り手がどちらも誠実で善良だとこんなにも良い話になるんだなと。
脇役も含めて登場人物をどんどん好きになっていく温かいお話です。みんなに幸せになって欲しいし、穏やかで優しい時間をたくさん共有したくなります。
短編も何度か読み返したのですが、長編でじっくり堪能できてその後まで読めるなんて感謝です。
淡々とした手紙だけの交流でも、受け取り手がどちらも誠実で善良だとこんなにも良い話になるんだなと。
脇役も含めて登場人物をどんどん好きになっていく温かいお話です。みんなに幸せになって欲しいし、穏やかで優しい時間をたくさん共有したくなります。
短編も何度か読み返したのですが、長編でじっくり堪能できてその後まで読めるなんて感謝です。
何から書けばいいのやら…。と思うほど、紹介したい要素がたくさんあります。
私個人としては貴族らしい打算や責任感もありつつ、愛情深い義母のヘンリエットがとても好きなキャラクターです。
しかし一番驚いたのが、夫バーナードが戦地で友人と交わしていた言葉。そして、戦後の混乱期へ馳せる思い。
こんな歴史観、戦争観に支えられた物語が、今後どう展開するのか楽しみでなりません。
大枠だけ見れば、平民の娘が訳あって貴族へ籍を移すというある種のシンデレラストーリーですが、根底にうっすらと見える思想が、他に出会ったことのない(少なくとも私は)物語にしていると感じました。
私個人としては貴族らしい打算や責任感もありつつ、愛情深い義母のヘンリエットがとても好きなキャラクターです。
しかし一番驚いたのが、夫バーナードが戦地で友人と交わしていた言葉。そして、戦後の混乱期へ馳せる思い。
こんな歴史観、戦争観に支えられた物語が、今後どう展開するのか楽しみでなりません。
大枠だけ見れば、平民の娘が訳あって貴族へ籍を移すというある種のシンデレラストーリーですが、根底にうっすらと見える思想が、他に出会ったことのない(少なくとも私は)物語にしていると感じました。
このジャンルで久々に出会えて良かった作品。
厳しい時代に逞しく生きる人々を丁寧に描きながらも、包み込むような柔らかな雰囲気と、ユーモアを散りばめた秀逸な一作です。
別記載の短編に一部加筆、その後のお話を本編とした本作。短編→連載にありがちな間延び感がなく、満足度が増した構成で読み応えがあります。
短編だけでも是非ご一読を。オススメです。
〈あらすじ〉
近代英国的な世界観の戦中戦後のお話。
従軍中の貧乏貴族♂が知らぬ間に婚姻!?
言葉少ない手紙で妻と繋がり(短編部分)、
帰還後ぎこちなく心通わせる2人は生活力のない家族らと混乱期を乗り越え…(本編更新中)。
短編では語られなかった母の想いや貴族家の柵、ほんわか家族との日常など、改めてじっくり読みたい仕上がりです。
素晴らしい物語の世界を更に広げてくださる作者さんに多謝!
厳しい時代に逞しく生きる人々を丁寧に描きながらも、包み込むような柔らかな雰囲気と、ユーモアを散りばめた秀逸な一作です。
別記載の短編に一部加筆、その後のお話を本編とした本作。短編→連載にありがちな間延び感がなく、満足度が増した構成で読み応えがあります。
短編だけでも是非ご一読を。オススメです。
〈あらすじ〉
近代英国的な世界観の戦中戦後のお話。
従軍中の貧乏貴族♂が知らぬ間に婚姻!?
言葉少ない手紙で妻と繋がり(短編部分)、
帰還後ぎこちなく心通わせる2人は生活力のない家族らと混乱期を乗り越え…(本編更新中)。
短編では語られなかった母の想いや貴族家の柵、ほんわか家族との日常など、改めてじっくり読みたい仕上がりです。
素晴らしい物語の世界を更に広げてくださる作者さんに多謝!
アストン子爵家の益々の幸せを祈りたくなります!明日が見えない現実で生きる、兵士や家族の描写に切なく心惹かれます。厳しい冬の中でも小さな春の芽を見つけ、大切に育んでいく印象が残りました。チェリーの行動が幸せを運んできたのは勿論ですが、それを受け取るバーナードやお義母様、キャロライン達の温かさがあったから、本当に読んでいて幸せになりました。長編になるほど満足感が凄い。食事や掃除など丁寧に暮らしたくなるお話です!
等身大の喜怒哀楽を確かな世界観が支えている♪
- 投稿者: sayonara_sankaku [2024年 05月 10日 08時 54分]
「女傑が不在の夫に離婚を突きつける話、前にもあったっけ」と軽い気持ちで読みはじめたこのお話。読み始めてすぐ、なにげなく『背割り長屋』という耳慣れない単語を右クリックで検索してみた。すると、出るわ出るわ、産業革命後の労働者の悲惨な居住環境にまつわるアレコレが。途端にシャキーンと背筋が伸びて、物語を見る目が変わってしまった。バーナードのいた戦場はあの西部戦線なのかな?とか、11月に終戦なら帰還はいつかな?などと考えるようになると、チェリーを取り巻く状況のリアルさに相俟って彼女の等身大の感情がぐっと心に迫るようになった。この世界には、デウス・エクス・マキナのように書き手にとって重宝な魔法や転生は存在しないのだ。それが彼らをよりいっそう魅力的に見せてくれる。物語がどこに帰結するにせよ、それは描かれた時代の要請によるものなのだろう。そんな禁欲的とさえ言えるような名手の采配を楽しみに見守りたい。
戦争という題材で少し物悲し面は散らばっているけれど、人間の温かい感情がとても素敵でほっこりして、絶妙な間にくすりと笑えて心が優しくなる話です。物語の軸がしっかりしてて、短編から長編になる有りがちなダラダラとした話は無く、どの話もキャラクター性の人間像を明確にし、どんどん人が好きになるのでアッという間に読み進めてしまいます。昔、好きだった外国のホームコメディみたいでオススメな作品です。
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