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笑えて、なごめて、にやつけて。ほんのちょっぴり泣きたくなる、ひとつの宝石のような小説。

  • 投稿者: 朽尾 明核   [2013年 06月 20日 23時 17分]
これは、妄想がちな中学生の平井君と小岩井さんが繰り広げる、ほのぼのとした青春物語である。

彼と彼女の織りなす妄想劇は他愛もなく、中学生の頃ならば誰もが考えそうな、微笑ましいものだ。
それが独特のテンポで繰り出され、こちらの笑いを誘う。シュールで淡々とした、個性的な会話に思わず笑みがこぼれてしまう。
そうしてモニタの前でひとしきりニヤニヤしたあと、物語は大きな契機を向かえる。
受験、進路、別れ。「現実」というモノの片鱗が顔をのぞかせるのだ。
大人とはなにか、子供とはなにか、夢とはなにか。
自問し、悩んでいく主人公。思春期に誰もが経験したであろう漠然とした不安が、綺麗な文章で綴られてゆく。

そして透明感のあるラストシーンを読み終えたとき、あなたの胸にはきっと、形容しがたいあたたかい気持ちがあふれてくるだろう。

「夢」を抱いていたあの頃の気持ちを思い出させてくれる、宝石のような小説である。
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