イチオシレビュー一覧

　美麗にして的確な隠喩をここまでふんだんに取り入れた小説を、私は知りません。『なろう』では言うに及ばず、市販の書籍を含めても、です。
　もちろん、卓越した文章だけではなく、ストーリーにも心奪われました。素人のＳＦ小説では乖離してしまいがちな設定と物語が絶妙に絡み合い、独創性のある展開がそれを牽引し、それと気づかせぬ巧妙な伏線とあいまって、一つの結末へと昇華していく。美事です。
　そして何よりも特筆すべきは、練りに練られた人物設定がなせるであろう、感情と思考の奔流とも言うべき息つく間もない心理描写。圧巻の一言です。『なろう』ではおろそかにされがちな“心の描写”のお手本と言えるのではないでしょうか。

　心得ある人ならば、第一話を読んだだけできっと虜になるはず。
　実力者の紡ぎだす生きた人間たちの物語に、小説の持つ力というものを一人でも多くの利用者と共感したいと、強く願います。

　小説家になろう内で、SFはファンタジーに次いで人気の高いジャンルであるのは周知のとおりだ。
　しかし、その内実はほとんどがファンタジー紛いのVR物か、妄想を書きなぐっただけの代物で、とてもSFとは呼べやしない。
　この作品は違う。
　よく練り上げられた、退廃したディストピア的世界観。流麗で、切れ味鋭い刃のような文章。巧みに織り込まれた比喩。繊細かつ強靭な物語。そのすべてが読者を捉えて離さない。主人公の山葉が繰り広げる闘いは躍動感に満ち溢れ、ところどころにちりばめられたユーモアは笑いを誘い、随所に張り巡らされた伏線は圧倒的な熱量をもってラストへと殺到する。
　まさしく、この小説こそが真のSFであり、サスペンスであり、物語である。
　『狐たち』は間違いなく小説家になろうで最も素晴らしい作品の一つだ。この物語は結末を迎えてしまったが、作者のnutellaさんが紡ぎだす、次なる物語に期待したい。

ある事件をきっかけに世界的民間軍事会社から地方の警備会社へ移った山葉、
ジャーナリストを辞め警備会社に勤めながらも煩悶とした気持ちを抱えるクーリロワ。
山葉が聖女だと信じる少女、ツォエに二人は出会い、物語は展開していく――


汚染、戦争、難民と、どこか退廃的な世界が洗練された文章でつづられています。
また、随所にあるアクションシーンも確かな筆力で躍動感があります。

少しずつ明らかになる登場人物達の背景や、伏線、近未来の世界観、とにかく丁寧にお話が作りこまれている印象です。
初めてレビューを書かせていただこうと思うほどぐいぐい引き込まれ、もっと評価されても良い作品なのではと思いました。

そろそろ終盤だそうです。
まだ続いてほしいというのが本音ですが、どんな結末なのか、非常に気になります。