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ビルドゥングスロマンである。傑作である。

  • 投稿者: 在形 直   [2012年 09月 28日 03時 29分]
大東亜戦争に勝ち、しかし結局の所、米国に屈服した「昭和の日本」
そんな仮定の舞台で、徴兵制によって20歳の青年が赤紙をもらう所から、物語は始まっている。

全体的に泥臭く、特に物語世界に流れる政治的な空気は読む人にとっては壁になるかもしれない。
しかし、気をつけて欲しいのは、、それは物語の設定であって、「戦前」と「戦後」を繋げてゆく「昭和」という匂いを醸し出す為の仕掛けでしかない事。

この物語の本当の肝は、
多くの若者が持つ浅はかで理屈っぽい感情やその他が、
いくつもの経験によって変化し、高く積み重ねを得てゆく様子にある。
山を登った時の、遠い旅をした時の、振り返った景色。
それは経験しないと「感じる事」ができないもの。

せまい世間の中で見えていた景色を、また別のせまい世間で見た時、気づくこと。
主人公は経験し、感じる。知り、共感をする。
これは本格的な成長の物語だ。傑作である。
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