イチオシレビュー一覧

▽レビューを書く

25℃のものがたり

  • 投稿者: 森四季   [2013年 06月 13日 02時 48分]
 これは人魚の物語。けれどかの有名な、声の代わりに足を得て、見つめるだけの恋をして、最期に泡となってしまった人魚姫の話とは、ひと味ふた味違った物語。
 好奇心でいっぱいの可愛らしい人魚の少女が、捕らわれて売られた先の見せ物小屋には、かつてパートナーを失った者や、悪意の渦中からかろうじて逃げてきた者など、大切な何かを失った人々が集い、いつしか少女もその事情に関わっていくことに。彼女が目にする人間の世界は、どこかいびつで滑稽ではあるけれど、それでもそこで人は生きており、その様はもの悲しくも、いとおしい。
 ここではないどこかの国の、熱くはないが冷たくもない、例えるならば涙が零れた跡に似た、南の海の温度の物語。異なる大地を旅してみたい、そんなあなたにおすすめする。どうぞご一読を。

 そして「退廃的な未亡人っていいよな」という我が同士……もとい趣味人にもおすすめ。
↑ページトップへ