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決して見紛うことなかれ

  • 投稿者: 熟雛   [2013年 05月 22日 00時 32分]
殺人行為は決して一つの精神論では語れない。それは善悪という、人間を人間とする根底的概念からしてそうだ。何が善くて何が悪いのか。そんなものは考え方一つで変動する。絶対悪が存在し得ないのはそもそも人の善悪という概念がそういう微細繊細な類いであるからだ。法に背けば即ち罪人である。ただ罪人が悪人であるかどうかという点で論は別れる。この作品は殺人あるいは食人行為を著者のニヒリスティックな趣向であくまで大衆文学に留めている。しかしどうだろう。この作品から読者が得れるものは高々一時のエンターテインメントだけであろうか。理不尽不条理皮肉に破綻。著作が所々に仕掛けた冷寒なる精神論と狂熱的なまでの“問いかけ”は恐らく最後まで読者を胸焼けさせる事だろう。この作品は流読すれば救われる。だが“思索する読者”には厭らしい程問い詰め、最後の最後、底の底まで追い詰める、“厭な小説”なのである。だから。流せぬ者は覚悟せよ。
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