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薄毛の騎士と阿婆擦れの姫

舞台となるは寂れた孤島。

主人公の岩井剣吾は、ハゲ散らかした冴えない男だ。機知に優れるわけでも、気の利いた言葉が言えるわけでもない。ただ一つの特技と言える剣術さえも、その鈍った身体では十分に振るえはしない。

対するヒロインの新名紫は、その天性の歌声と弛まざる努力によって自らの運命を切り開いた歌姫だ。彼女はアイドルとなるため、島と幼馴染の剣吾を捨てていた。

しかし別れを告げた幼馴染は歌姫として島に舞い戻り、かつての精悍な面構えからは想像もつかないほどハゲ散らかした男と再会する。そしてすれ違う思いは急転する事態によって再び交錯する。

そこで示されるのは、人の気高さだ。

マグロ包丁を構えるハゲ散らかした「騎士」は姫の祝福を得て見苦しくも剣を振るい、悪女然として振る舞う偽悪の「姫」はその天性でもって人々を導く。

最高に格好悪く、だからこそ格好いい物語が、ここにある。
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