イチオシレビュー一覧

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日常の隣のあったかもしれない狂気の連鎖

  • 投稿者: 亜房   [2019年 01月 22日 12時 31分]
物凄いゾクゾクとスッキリした読後感を両立している贅沢な作品

その読ませてくる文章でそれなりに長い作品なのに
一気に読んでしまった。

何処か歪んでいる人のぶつかり合いをこんなに上手く書く人は少なくとも僕は見たことない。

まだ僕はこのシリーズをこの作品しか読めていないが、他の作品も勉強しないでそのまま読み出す勢いだった(なお、短編で我慢した。)

僕の数少ないおすすめの作家です。どんどん読んじゃって下さいませ。

突きつけられる本題という刃物

  • 投稿者: 楠木千歳   [2016年 07月 31日 19時 55分]
この際、作品の本題に関しては他のレビュアーの皆様にお願いすることにした。

何故ならば既に語られていることの繰り返しになりそうだからである。私はこの作品の根底に貫かれているであろう主題に対して、彼らより詳しく伝えられる自信が無い。ということで放棄。ぜひ他の方のレビューを熟読してください。

さてでは私がここで語りたいのは、作者が巧妙に組み立てた物語の構成についてである。

要素としてはミステリーに近いものも感じられる。いや、加害者と被害者になるべき人物たちは当初は明確なのだ、だがしかし、そこに「友人」が加わってくると……あら不思議。敵と味方。殺す人物と殺される人物がくるくると目まぐるしく入れ替わっていく。

そのスリリングはまさしく、本題を心ゆくまで楽しむための最高の舞台装置。そこに私はこの小説の真髄を見た。

考えろ。そして考えろ。

時に物語は、私たちの心へ刃物を突きつける。

あなたは、人を救えますか?

  • 投稿者: 犬井作   [2016年 07月 08日 23時 02分]
あなたの友人がこれから死のうとしている。その時、あなたはその友人の死を妨害できますか?
もし妨害するとしたら、それはどうして? 友人だからといって、その人の望みを叶えない理由にはならない。自殺が悪だというのは一般論だ。死のうとするその友人も承知だろう。
死を選ぶ人間には死を選ぶだけの理由がある。
あなたはその理由を真っ向から否定するだけの、覚悟がありますか?

この物語の因果の中心に立つ人物、柏恵美は「誰かに殺される」ことを生きる目的としてきた。
彼女を中心に、人は悩み、人は動き、人は惑い、人は狂い、人は殺す。
様々な人が、彼女を救おうとする。そして、様々な結末を迎える。ショッキングだが、その生き方には心を動かされる。

この物語は、人を救うことの難しさに真正面から挑みかかった物語だ。その結末に至った時、きっと自問自答することだろう。

自分は、人を救えるだろうか。

狂宴の群像劇、柏恵美を取り巻く美しい狂気

  • 投稿者: big bear   [2016年 05月 19日 22時 53分]
群像劇、と一口に言ってもさまざまなものがある。しかし、この物語は今までにないものだ。
斬新な切り口と息を呑む展開、鋭く切り込んでくる登場人物達に軽妙な文章。この物語にはさまざまな魅力があり、そうでありながら、決して互いを損なうことはない。どの切り口から読み込んでもきっと楽しめるだろう。
しかし、私がこの作品の中で最も惹かれたのは、登場人物の根底に流れる人間の狂気だ。狂っているがそれは特別なことではない、彼らは我々の身近にある欲求と感情を突き詰めただからこそ蟲惑的に読者を誘う。
この作品の力は読めば分かる。この作品を読み終えたとき、貴方もまた柏恵美の狂気に魅了されているだろうから。

人を読むということ

  • 投稿者: えくぼ   [2016年 01月 09日 18時 25分]
 私はよく、小説に主人公への共感を求めている。それは主人公が没個性で当たり前のことしか言わない人間であることを望むのでは、ない。それを示してくれるのがこの作品である。
 登場人物は自らの生き様に沿って理解されることのない狩り、狩られる関係を望む二人、そしてそれを取り巻く人々に分かれる。異常なはずのメインキャラのその人格には過去があり、そして意志が、因縁がある。だからこそ読者の全てがたとえ異常でなくとも共感がそこにはある。
 そんな二人を止めようとする者、手助けする者も生き生きとしてそれぞれの距離を保ち、動く。
 小説の意義として、異なる人間の思考を取り入れる、というものがあるとすれば、きっとこの作品はその役に立つ。

「せいぶつ」と 文字に書けども 生くるより 死して過ごせる 時の久しき

  • 投稿者: 173   [2015年 11月 01日 04時 12分]
 古今東西、人が死ぬ物語は珍しくない。
 だが本作は如何だ。

 柏恵美。彼女を殺したい者が居る。彼女が殺されることを望まない者が居る。当の彼女は殺されたい。
 自らを殺す者を歓迎し、自らを守る者と敵対する。
 彼女に関われば、彼女を原点として振り回される。其れには当然、読者も含まれる。
 だが安心して良い。何処まで行っても、彼女が「原点」なのだ。原点は絶対だ。
 我々は彼女に身を委ねれば良い。まるで、彼女が、そうするように。

 良い作品は主人公が魅力的だと痛感する。
 逆も然り。

 指向性などなかったはずの意志が、遺志が、彼女を切っ掛けに彼女に執着し、終着する。
 最後まで読んだとき、読者はタイトルの本当の意味を知る。
 成程成程、此れは確かに、「柏恵美の理想的な殺され方」なのだ、と。

 天道と月が奪い合う。
 其れは光か、はたまた影か。

 死が生を象るならば、果たして――
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