イチオシレビュー一覧

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何度も何度も、何度でも。レビューされ続けるべき作品がある。

すでに14件ものレビューがついている名作です。
主人公は農作業用のロボット、コタロー。住民が誰もいなくなってしまった地区で、彼は真面目に誠実に、仕事をし続けています。
なぜ住民がいないのか。それはここが、大震災のあとに閉鎖されてしまった地区だから……。

その悲劇が、声高に語られることはありません。
作者様の筆はあくまで静かに、淡々と。読み手にも楽に伝わるように、わかりやすく読みやすく。そして詩情にみちあふれています。

その詩情の果てにある終盤を見届けたとき──。あなたは涙を流さずにはいられないでしょう。
泣きながらこのレビューを書いている、私のように。

どうしようもなく泣ける……無生物に泣かされる……

  • 投稿者: 暮伊豆   [2021年 10月 14日 12時 32分]
農作業ロボットの『コタロー』
震災で住めなくなった故郷
何年も誰も帰ってこない地で
コタローは一人で動き続ける

働くコタロー
流れるラジオ
実るリンゴ
命を営むハチ
人間だけがそこにいない……

コタローはプログラム通りに動いているだけのはずなのに
どうしようもなく心が揺り動かされる
泣かされる

『地震、津波、オトウサン、オカアサン……』

泣かされた……
最後の一行にも、どうしようもなく……

とても考えさせられる作品

  • 投稿者: 石嶋ユウ   [2021年 07月 12日 20時 49分]
ラジオ放送を通じて描かれる大災害の影響で帰れなくなった主人を何年も何年も待ち続けるロボット達の姿が健気で、切ない。日常を奪い去った災害とそれからの月日の長さが、どれだけ残酷なのだろうと思う。

作中に登場するいくつかのワードが、約10年前、現実に起こった大震災のことを思い起こさせる。あの大震災が奪いとったあの頃の日常が戻ることは、もう無いのかもしれない。それでも、それでも人は、あの日起こったことを忘れずに、いや忘れないで生きてゆくのだ。とても考えさせられる作品である。

この作品を初めて読んだのはもう1年近く前のことになる。それでも、ずっと頭の片隅でこの物語のことを覚え続けている。この作品には、人を惹きつける強力な力がある気がしてならない。誰かにとって忘れられない一作になることを願う。

『ただそのまま触れてください』……それ以上のレビューが思いつきません。

  • 投稿者: 瀬川雅峰   [2019年 11月 06日 20時 50分]
こんなにレビューしにくい作品、
久しくありませんでした。

この作品に初めて触れた日、
その優しさと美しさ、世界の完全さに圧倒されました。

なんと素晴らしいのだろう、
いつかレビューを贈らせていただこう、と思い……
結局、今日まで書けませんでした。

そこにある全てが調和していて、
何も足したくない。
何も引きたくない。
私の書くお薦めなど、何を書いても、
結局は蛇足、無粋にしかなり得ない。

『ただ、そのまま触れてください』

必要なのは、この一行だけでした。

“変わることのない”風景、流れるラジオ、ロボットは今日も……

  • 投稿者: Kei.ThaWest   [2019年 09月 05日 15時 46分]
ある時、ある出来事を境に、その地域は機能を失った。

リスナーがいるのかどうかすらわからないまま流されるラジオ。
取り残されたロボット達がルーチンワークとして送り続けるのは、ふるさとのデータ。

のどかな風景。
過ぎてゆく日々。

人の営みの無いまま時間だけが、ただそこに残った。

ロボットに感情は無い。
喜怒哀楽など欠片すらも、無い。

けれど、あなたはきっと心を揺さぶられる。

コタローは、りんご畑の世話を止めない。
その淡々とした作業とメモリーに、胸が締め付けられる。

全ての日本人の琴線に触れる一編。

林檎と空へ伸ばした手は、何かを掴んだだろうか。

  • 投稿者: 退会済み   [2018年 06月 13日 22時 16分]
管理
舞台はどこかは明確に示されない。

未来の日本かもしれないし、架空のどこかかもしれない。そこは原発事故の避難区域で、残されたロボットたちが、せっせとまだ人がいた頃の仕事をして過ごしている。マスターの帰りを待つ彼らは、時が経つにつれ一体、また一体と機能を停止していく。「コタロー」もその一体、林檎農家のロボットだ。

ここまで書いて、「コタロー」が私の中で、名前のないロボットではなくなっていることに気づいた。おそらく、どこにでもいたはずのロボットは、きっと去ってしまったマスターたちにとっては大事な「コタロー」だったのではないか。だから待ち続ける。毎日美しい故郷の写真を送って。

物語りに書かれていないことを、想像して語るのは無粋だ。でも、このお話にはそうさせるだけの力があった。
だから、コタローの残した最後のそして沢山の写真に、彼が何を思っていたのか想像せずにはいられないのである。

それでもりんごは赤く色づく。どうか3.11を忘れないで。

ふるさとへ帰ることを決めたひとがいます。
ふるさとへ帰らないことを決めたひとがいます。
ふるさとへ帰るべきか、悩み続けるひとがいます。

あれほどまでにニュースになった大地震も、月日とともに話題になることが少しずつ減ってしまいました。

恐ろしい記憶など忘れてしまいたい。
無関心なわけではないけれど、日常が忙しすぎて……。
それは間違いではありません。
誰にだってそれぞれが抱える事情があります。

だからこそ、今日だけは想像してみて欲しいのです。

誰もいない家屋を。
笑い声の聞こえない静かな里山を。
そこでのびやかに育つ豊かな緑を。

違う場所で違う仕事を始めたひとの姿を。
同じ場所で同じ仕事に戻ったひとの姿を。
ひっそりと赤く色づくりんごを。

復興はいまだ道半ば。けれどそこには前を向く人々の姿があります。懸命に生きる人々がいます。

それでもロボットは、働き続ける

  • 投稿者: 退会済み   [2018年 02月 25日 17時 33分]
管理
無言で命令を実行し続けるロボットは切ない。

普段は、こういう……震災のことを書いていると解る作品は、極力避けていますが……読んで良かった。

誰も居なくなった町で、ロボットは、ただ動き続ける。
いずれ、このロボットたちも、朽ちていくかも知れないけれど、その日が来るまで命令を実行していくのでしょう。

人間が一緒に居た頃と、変わらずに。

りんごの甘酸っぱい薫りを感じるような、切ない作品。

どうして涙が止まらないのかわからなかったから

無人の町でロボットは毎日決められたように作業を行います。

報告。報告。報告。
作業。写真。カシャッ。送信。
ロボットのカメラに映る風景……かつて聞こえた訛り。

季節は巡り、ロボット達の日常が続きます。
それらを受信し、ラジオが伝える、見ることのできない故郷の風景。

涙でいっぱいになりました。
でも、私はどうして涙が出るのかわどうしても説明できなかった。
言葉にできなかったんです。
そうして感想もレビューも書けないまま、読了から半年近くたちました。

ふるさとの歌。
ロボットの目にも映ることがなくなった風景。

ラストシーンは・……。

……私にも故郷があります。

目に浮かぶ路地。耳にした訛り。空気の匂い。肌に感じる日差し。

そのすべてを思います。
そこにずっとある人たちを。

浮かべて、引き合わせて、失われてしまった日常を想像して……想像が届かない。

胸が痛んで耐え難かった。

「りんごの花言葉は『選択』、『後悔』、そして『永久(とこしえ)の幸せ』。いつまでも読み継がれてほしい、懐かしくも暖かい未来のお話」

 りんご、今でこそ珍しくない果物ですが、栽培、出荷には大変な作業の連続です。
 雪深い頃からの剪定、除雪。そして追肥。
 花が咲いたら摘果、実がついたら袋かけ。
 収穫の時にも細心の注意を払います。

 この作品の主人公はリンゴ農園を託された農業用ロボット、コタロー。
 作業中流すのは地方ラジオ。繰り返し再生するのはその地を離れたオトウサン、オカアサンの訛りのある素朴な声。
 充電を切らさぬよう、二人がいつでも帰って来られるよう、コタローは作業を続けます。

 この世に「絶対」はない、「明日」が突然来なくなる。
 数年前の今日、この時間に怒った事は多くの人に影響を
与えました。
 何もできず去っていった人たち。
 残された人間にできることは――――折に触れ思い出すこと。
 彼らのためにでなく、自分自身の生を全うすること。

 寒くても陽射し溢れる地に、りんごの花の香りが漂うように、
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