イチオシレビュー一覧

『聖堂騎士』という輝かしい栄光を掴みかけ、されど才能ゆえにその道から転げ落ちた青年ネロ。

希望もなにもない世の暗部としてひっそりと生きるはめになった彼が、荒れ果てた遺跡で遭ったのは、ヒトの『夢』を喰らう異種族の女。

彼女は紛れもなく誇りある貴種だった。あまねく男を魅了する魔性だった。

一人の密造主として、騎士になれなかった男は己が愛する葡萄酒を作る。全ては月の美貌もかくやの彼女の笑顔を見るために。彼女の心を射止めるために。

たとえその儚き一時を邪魔する、いかなる苦難が待ち受けようとも。譲れぬ《意思》と剣を執って、かの落伍者は闘う。

圧倒的スケールの大作『燦然のソウルスピナ』と世界観を同一にした物語。時系列的に考えると、かの作品の一章終了時点で読むことをお勧めする。併せて読めば作中の何気ない単語にニヤニヤできること請負だ。

落第騎士は月の美女との蜜月の夢を見るか？

　ブルーブラッドではないにも関わらず、聖堂騎士になりかけたネロ。しかし些事にからめとられ、クビになってしまう。
　残ったのはどうしようもない思いとワインへの情熱だけ。実家は長男というだけで継いだ兄によって壊滅的な状況、戻ることも許されない。
　だが、なお作り続けていたワインが一人の美少女に与えられた時。誇りある優しい天使のごとき彼女は、蕩けるように芳醇なワインの…雫に満ちる甘美な夢の虜となった。

　同作者の《燦然のソウルスピナ》と世界観を共有する外伝。単体でも十二分に楽しめるが、こちらも読んでいればニヤリとしてしまう話も多い。
　官能とすらいえる蠱惑的な文章とビリリと痺れるようなストーリーは流石の一言。
　この作品を読めば、思わず月光の気高さを想い、素晴らしい物語の魔法に酔ってしまうに違いない。
　ひりつくような戦いもあるが、核にあるのはそれぞれの熱い思い。あなたも溶かされてみませんか？