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孵る前に死んでしまった、美しいものたちの物語

  • 投稿者: 鵜狩三善   [2015年 08月 22日 09時 04分]
 肩を叩いて、「こちらの肩をお勧めします。ですからどうぞお移りください」。オカタサマに取り憑かれたものは、そうしなければ三日のうちに死ぬ。
 それはただの噂だけれど、やがて英理と美也を押し潰す、漠然と大きなものの象徴だった。

 世間を知るのは大切なこと。空気を読むのも大事なこと。
 諦めて、汚れて、小狡くなって、小賢しくなって。そうやって人は大人になる。尖ったところを少しずつ失って丸くなる。周りと衝突しなくなる。
 でも、研磨されていったのは本当に要らない部分だった?

 そう自問するほどに透明で純粋で、どこまでも美しく、どうしようもなく悲しい物語。
 デウス・エクス・マキナを望んでしまうほどにその結末は痛く苦く、だからこそ深く心に残る。
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