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母を乞う子どもに、戯れに手を差し伸べてはいけない

子どもは無邪気で、時に残酷なまでに正直だ。欲しいものは我慢できず、手に入れるために手段は選ばない。ひっくり返って手足をばたつかせるうちは可愛いものだ。奇声をあげ、涙を流し、なんとかしてこちらの気を引こうとする。

それでも欲しいものが手に入らぬとしたら、一体どうするだろうか。ある子どもは考えるだろう。無理やり奪って自分のものにしよう。そして別の子どもは考えるのだ。いいや、いっそのこと壊してしまおうと。諦めるなんてできやしない。大好きで、大切でかけがえのないものだからこそ、彼らは恐ろしいまでの執着を見せる。

この作品を開けば、耳には騒々しいまでの蝉の声が聞こえてくる。部屋の中にいるのは可愛い我が子と見知らぬ子ども。その子どもは自分のことを仮初めに母と呼び、慕ってくるのだ。

そのどこか暗い歓びに甘んじてはいけない。戯れに差し出した己の腕は、腹を空かせた子どもに喰われてしゃぶり尽くされる。
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