イチオシレビュー一覧

　本作は十九世紀後半のドイツを中心としたヨーロッパを舞台に、ドイツの軍人オスカー・フォン・アレティンの生涯を描いたものです。
　正直、作者様の膨大な資料を当たったと思われる丹念な下調べの形跡に自分も圧倒されております。
　この作品のレビューなど書けるのか、と書く前に躊躇したほどです。
　ただこの作品の注目度が思いのほか低いと感じられたため、拙いレビューでもないよりはましか、と思い切って筆を取ることにした次第です。
　国と時代は違いますが、個人的にはトルストイの『戦争と平和』を想起させる作品でしょうか？
　あの作品もヨーロッパを舞台にした「歴史大河ロマン小説」といった趣がありますから。
　いずれにしても六十万字を超えてなお完結を見ない本作を是非ご一読下さい！

主人公オスカー・フォン・アレティンの、生き様を描いた本作。時は鉄血宰相ビスマルクの意気盛んな近代ヨーロッパ。
オスカーの国はプロイセンにより敗戦国となる。
作者はこの学術書のような作品を、実に彩り豊かに仕上げている。政治、戦術、社交、芸術。そして恋愛。
愛を知らず育ったオスカーが、女性に惹かれるシーンはロマンがあるが、それもどこかしら哀愁漂うのは生い立ちゆえか。

私はこのレビューを書くのに躊躇した。

なぜならあまりに膨大な調べものがされており、自分などがレビューを書いては作品の質を損なってしまうのではないかと恐れたためである。
そのくらい、膨大な下調べの賜物と言える作品なのである。作者の本作品への愛情がしのばれる。

この作品は映画にしてもらいたい。
きっと見応えのある、素晴らしいものに出来上がるだろう。

オスカーの生き様が、琥珀のような半透明の煌めきに閉じ込められている。

近代ヨーロッパの歴史に興味をお持ちならば
是非お手に取っていただきたい作品です。
そうではない方でも、ドラマチックなものが好みならば
きっと引き込まれる事でしょう。

書き手様の文章は見事であり
拝読しているうちに目の前に情景が現れます。

文章に奥行きがあり、
特に細かく描写されていない部分であっても
古めかしく品のある家具や
人物のまとう服のひだまで読み取れるように感じました。

美麗な人物も作品の魅力の一つです。

これは、史実に対する
書き手様の知的好奇心と深い知識が土台になった
優れた青春小説だと思います。

華麗な海外ドラマを見ているような心地になりますよ！