イチオシレビュー一覧

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「この地図を作ったのは、お前か」

「無理だよ。そんな遠くには行けない」
「おや、随分と諦めが早い。世界地図作りたいんでしょ?」

地図を作る旅にでた少女ウネンには、いくつもの宿命と危難が待ち受けていた。

ここだけ切り取るとファンタジーに思うかもしれない。
ファンタジーなのだ。途中までは。
もう、ネタばらしをしてしまおう。

 SFだ。

途中で作者の頭がおかしくなったんじゃないぜ?
随所随所に差し挟まれる伏線の数々が、このための布石だったのかと驚愕させられる。


この3連休、面白い小説を読んで過ごしたい人へ。
48万字、本編81話と聞けば相当量に思われるだろう?
それがスイスイ読めてしまうんだ。これだけの内容量にもかかわらず。
作者の卓越した文章力がそうさせるんだ。

「さァ、神々から科学文明を取り返しに行こうか」
「ずっと、ずっと、ぼくのことを覚えていてほしいから」

              おかえり

広大な世界の時空を旅する物語

  • 投稿者: 風羽洸海   [2017年 07月 30日 11時 38分]
失踪した医師ヘレー、その教え子ウネン。
ヘレーを追う剣士と魔術師の二人組と出会い、ウネンは広い世界に旅立つ。

物語の目的は一貫して人捜しなのだが、その旅路で各人の抱える秘密や過去、痛みと優しさが少しずつ解きほぐされ、新たな絆となって結びついてゆくのが温かく心地よい。

また並行して、魔術とは・精霊とは何か、といった神秘の仕組みから、隠された歴史の謎までがじわじわと姿を現し、最後には読者の前に圧倒的な世界が開ける構成になっている。

50万字のボリュームで少々回り道に感じられる展開もあるが、多彩な人物、軽妙な会話、謎解きに魅せられて、長い旅路も退屈はしないだろう。
そうしてたどり着いた結末の満足感がひときわ感慨深いことは間違いない。

世界の広がりと、そこに暮らす人々の人生を堪能したい読者に強くお薦めする。

広がっていく地図。広がっていく自分の世界。

測量する。正確な地図を作る。
それは、世界を切り取る事ではなく、正しき眼で見詰め、紙に記していく事。世界を知る事。

少年に間違われる様な見た目の小柄な少女ウネンは、領主からの地図製作の依頼を受けた事で、少しずつ何かに巻き込まれていく。

「知識は、ちからだ。そして、不必要に大きなちからは、それだけで災厄を引き寄せる」

そうだろうか。
そうかもしれない。

だけど、知識を深める事は世界を知ること。
そして、自分という世界の地図を埋めていくこと。

少女は恩師ヘレーを探す二人と共に、自分という地図を広げていく。

これは、静かなワクワク。
丁寧なドキドキ。
そう、一言で言えば、素敵な物語。
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