イチオシレビュー一覧

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愛おしむ者たちへ

  • 投稿者: 九藤 朋   [2017年 08月 09日 14時 34分]
この作品の根源は、愛ではないかと真剣に私は考える。人を見て、心通わせ、慈しみ、愛おしむ。その経過、結果がどのようであれ。読み手に、命あるものへの愛おしさを喚起させるもの。それが『魔女の愛弟子』だ。主人公のペルは愛を知らない状態から、西の大魔女に引き取られ、そこからまず師への思慕を知る。その師が消え、跡を追う時、彼女の心には常にその思慕があり続ける。やがてその熱情は、旅の伴連れであるゴルデンへと向けられ、更に愛情を向ける対象は増える。ペルは最終的に、様々な愛情を経て羽化するように大人になる。それは人を、何か物事を愛おしむ人たちへのエールのように思えるのだ。また最後に、各ストーリーの要所要所に散りばめられた童話の細工も非常に小粋な演出であると明言しておく。

ウイスキーの薫り漂う、大人のための童話

 師である西の大魔女を追って旅に出た、「愛弟子」ルンペルシュティルツヒェン、通称ペル。
 名に縛られ、役目に縛られ、一心に師を追い求めるばかりのペルが、色んな人々の「依頼」に触れるうちに、少しずつ人の想いを、そして自分の想いを知ってゆく。そのたどたどしい足取りを、応援せずにはいられません。
 旅の道連れとなった東の大魔女ゴルテンとの、どこか危なっかしいやりとりにも、目を引き付けられました。

 貴石のちからを持つ「魔女」、愛弟子の元に届けられる「依頼」、読み取られる運命の縮図、道を踏み外した「闇」、そして――「世界」の秘密。
 幻想的な物語に加えて、肌で感じるがごとき魔法の描写がたまりません。
 人々の生活感あふれる町々の様子も読み応えたっぷりです。

陰惨とした狂気、欲望、そして深い悲しみ。その先にあるものは、〈愛〉――。

ルンペルシュティルツヒェン、略してペルと名付けられた少女は、西の大魔女の愛弟子である。
ペルは「人々から飛ばされてくる〈依頼〉」が実行可能か否かを見極め、可能なものだけを小瓶に詰めて師である大魔女に届ける任に就いていた。

師が突如出奔し、師の代理として人々の〈依頼〉を叶えなければならなくなったペル。
訳あって東の大魔女である少年とともに〈師を探す旅〉に出たペルは、任務をこなしながら、また少年と衝突しながらも、その過程で様々な感情に触れ、そして〈本当の自分〉を知り成長していく。



これは時に悲しく、時に暴力的で、そしてたしかな〈愛〉の篭った成長の物語。

グリム童話をモチーフとした暗澹な物語の数々の先に、あなたは主人公・ペルとともに様々な形の〈愛〉を見るでしょう。



――さあ、みなさん。

夜汽車の切符の準備は出来ましたか?

美しい調べとともに、長い旅へと繰り出しましょう。

異世界転生モノには食傷ぎみでしたので

  • 投稿者: 退会済み   [2016年 07月 31日 11時 48分]
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某氏のブックマーク経由でおじゃまさせて頂きましたが、他の方のレビューにもあります通り世界観と文章がいい!個人的に気に入ったのは擬音の表現、でしょうか。

他の作品も拝見させていただきましたが自分の世界を持っていて、それを上手に表現できる方だと感心しました。
それだけに、コレを含む他の作品が順位的に振るわないのは悔しい思いです。

もっと評価されてもいいのに、と思う反面、知る人ぞ知る作品としてそっと評価されるのもありなのかなと勝手に納得したりしております。

醜い小人が、少女へ、母へと成る物語

  • 投稿者: 尾多 悠   [2016年 07月 25日 18時 45分]
ルンペルシュティルツヒェン――醜い小人、ペル。
彼女は生まれる前から契約により魔女になることを宿命づけられていた。
親から引き離され、寡黙な大魔女の師の下で愛弟子として、与えられた使命に従事する。
使命とは人が無意識に飛ばす願い――『依頼』を正しく選別し、師へと託すこと。

しかし、師は去り、彼女は孤独となる。

か細く残された絆を手繰るように、ペルは師を求めて旅立つ。
旅の中、様々な『依頼』が彼女の下へと舞い込んで来る。
童話をベースに描かれる物語は、時に甘美、時に残酷な色彩と音色で奏でられ、人の心を如実に描き、暴き出している。
それが禁断の果実であるほどに、人は『依頼』に手を伸ばさずにはいられない。
選別者であったペルは師の代理として遂行者となり、まさに人の心に触れることで成長していくのである。

彼女が旅路の中で築く心と絆の果てに、どのような結末を迎えるのか。どうか見届けて欲しい。

哀しく妖しい、石と音色の物語

 黒曜石の魔女たるペルは、西の大魔女トラメの愛弟子として、人間たちの『依頼』(=願い、欲望)を天の摂理に照らして選別し、師トラメに送り続ける役目を担っている。
 繰り返し。その繰り返し。
 静かなその日々を突如奪うは、オパールの魔女。
 オパールの魔女と共に消えた師を追うペルに芽生える嫉妬と、思慕と。

 あまりに美しい音色に、言葉を失った。

 人間たちの欲は、願いは、楽器のように鳴り続け。時には花咲くよう、時に命引き裂くよう、哀しく怪しく響き続ける。

 音と光と熱と色とが、文字列を辿るごとに生まれ続ける。

 見事だ。
 心からの、称賛を贈る。

いと高き幻想文学

 本来のグリム童話は怖い。森や闇の恐怖を描いているから。

 この作品はその系譜と言って差し支えない、非常に組み立てられた物語です。

 魔法には理(ことわり)がある。行使には等価交換が必要。

 魔法はしらべである。個々人の音楽である。

 緻密に、丁寧に積み上げられた厳密なルールの上で、普通の人間には見えない[魔の気配]を、我々魔法が使えない人間にも分かる様に描写してくれています。

 魔法で不可思議な事が起こっても、それもあるべき世界の真理。そう感じさせる、徹底した世界が読み手を襲います。

 読み始めたら眼を逸らせない。それはもう魔法の理(ことわり)にとらわれたアカシ。

 さぁ、酔いしれましょう。魔法の空気に。
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