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血と汗と涙の本格剣客小説

  • 投稿者: 大本営   [2016年 03月 21日 20時 37分]
月は東に日は西に、今宵の月は満月か。
風情に浸る間もなく、剣客ジエンは先を急ぐ。
家名も武名も関係ない。
いまのジエンは亡き友の無念を晴らさんがために生き、その愛ゆえに遭い彷徨う生きる屍。
分かっている、全てを揃えても友は甦らないのだ。
それでも魔剣が囁くのだ、「立ち止まるな、全てを集めろ」と。

血と汗と涙の本格剣客小説「魔剣拾遺譚」、読むに値する作品だ。

桜の樹の下には屍体が埋まっていると言うらしいが、その死体はジエンが斬り殺した剣士かもしれない。

剣士VS魔剣士 青く静かに燃え滾る無惨チャンバラ

 戦士は、生きて帰らなければならない。
 彼の闘争はあくまで手段であり。
 勝敗の先、帰る場所のためにあるのだから。
 その剣は、奪われないために、守る為にあり。
 だが。だが。だが。
 その剣が、奪われたものを奪い返す為に、殺す為にあり。
 必勝のために、命さえも使い潰し的にしてしまうなら。
 彼の闘争は最早目的であり。
 そんな狂戦士が、いたとしても。
 ……生きて帰らなければならない。
 
 流浪の剣客ジエンは、亡友の遺したそれを求めて旅をする。
 それは魔剣。異相の剣は異形の斬撃を繰り出し、遣い手たる魔剣士は常態の剣士を屠り去る。
 その威力で悪行に勤しむ人面獣心の外道共。
 渡り合うために、彼もまた魔剣を放つ。
 尋常ならざる剣と剣。
 飛ぶ火花の中、眩しく煌めく亡き友の笑顔。
 ギシギシと、命の軋む音をさせて、因果応報の復讐剣が飛ぶ。
 
 侍フリーク必見の王道決闘話です。
 

鮮烈、苛烈な剣客小説

幼少のころ、難しい漢字に四苦八苦しながら吉川英治の宮本武蔵を読んだ記憶がある。

中でも、吉岡一門との決闘のシーンは峻烈な記憶として私自身の中に刻み込まれている。

死合うことは、残酷である。残酷であるがゆえに美しくもあり、残酷であるがゆえに、グロテスクであり、人の心に深く爪痕を残す。

これは、そういう小説であると思う。



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