イチオシレビュー一覧

深い海の中、歌うのは不思議な人魚たち。
ファンタジっくな存在であるはずなのに、彼らの世界はちょっとしょっぱい。
本来なら愛や恋を歌う魔法の歌声は、同族間で起こる争いの為、傷つけ、攻撃するものばかりに使われて、皆がピリピリ閉塞的に生きている。
愛を歌うために生まれて来たのに。
こんなに広く深い海に生まれて来たのに。
自由と好奇心は彼らの身体を苦しめる『酸』に閉じ込められている。
それでも。
一匹の純真な人魚は愛と自由を諦められない。
当たり前だ。
それを歌うための声を持つのだから。
ある日、彼女は望んでいた『愛のうた』が遠くから聴こえて来たのを感じ、痛みも苦しみも故郷を離れる寂しさすら押し込めて愛のうたへ向かい一筋の流星になり……。

文章と流れが美しいです。
それ以上に脳裏に現れる深海の怖じ気づいてしまいそうな、深く広い描写に圧倒されます。そして、人魚のひた向きさに癒されます。