イチオシレビュー一覧

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太陽神の子カルナを主役としたインド神話のリテイル

  • 投稿者: よしゆき   [2017年 02月 22日 18時 12分]
マハーバーラタはインド神話の叙事詩で、神々の血を引く5人の王子が王国を取り戻すため従兄弟たちと戦うお話です。一撃で無数の将兵を焼き払う神器や空飛ぶ戦車が見られ、一部では北欧神話のラグナロク共々人類は遥か昔核戦争で1度滅亡したという説の根拠に援用されます。

その無数の英雄の中で最も人気が高いものの1人が、太陽神の子カルナです。本作は彼の生涯に焦点を当てたマハーバーラタの翻案です。

しかし、単なる焼き直しにあらず。

原作は紀元前から語り継がれ、人々の感情のポイントも、駆使されるロジックも、現代の日本人には量れない面が多々あります。しかし本作では、各キャラの心理が詳細に、かつ我々も共感し得る形で描かれています。結果、彼らがより生き生きとした人間に映ります。

原作は世界一長い叙事詩で容易には読めませんから、本作で部分的にでも触れてみてください。既に読まれたかたもまた違った魅力を見出せます。

太陽のように翳りない魂

  • 投稿者: 犬井作   [2016年 06月 28日 19時 44分]
美しい。

この物語を読み終えたとき、浮かんだ言葉がこれだった。
恥ずかしながら、私はインド神話を詳しく知らない。とあるゲームでカルナの存在を知っているくらいだ。読み終えた今では、原典を読んでみたい衝動に駆られている。それほどまでにこの物語の主人公「カルナ」は美しい。

いや、カッコいいと言った方がいいのだろうか?
自分の心の声に耳を傾け、その行動に正しさを感じるならば是とし、正しくなければ否とする。たとえ死が待っていようとも、己の魂を誤魔化したりはしない。
カルナが黄金の鎧を失ってなお輝いているのは、その翳りない魂ゆえだろう、と私は想像する。

真似できないからこそ、憧れる。彼のようであれたらと思う。人はいろんな理由のために、カルナのように生きられない。
自分の魂の輝きを問い直したくなる逸品である。
この燦然と輝く太陽を、是非とも目にしていただきたい。

英雄かくあるべし

見よ、高き誇りを持って戦いに生きた英雄を!

見よ、自身を省みず、戦士として神をも恐れなかった英雄の生き様を!

インド神話を元に、これ程までに英雄を謳い上げた作品を私は知らない。

これは現代に蘇った詩人のバラッドだ。彼の英雄を高めこそすれ、貶める事無き。

比類無き、彼の英雄よ。この物語で甦れ。

熱き血潮があなたにも宿る。目に、耳にしたあなたに、その魂は宿る。

堕ちる陽光にも、恥じぬ者よ。

 正直なところ、多くの読者はこの主人公に現実味を感じないと思う。彼はあまりにも真っ直ぐすぎて、現代人からすれば、あまりにも感覚的に遠すぎる存在に見えるからだ。

 だが、彼は非現実的な存在であるか? 断じて否である。

 見よ、彼は泥と貧窮のあいだで産まれながらも、誠意の志しを厚くして独立した。
 見よ、彼は歪みを厭い、たとえどんなに卑劣な相手であろうと、敵であろうと、誠意を尽くした。
 見よ、彼は己の欲のなさゆえに死に到るが、そこにはどんな後悔も残さなかった。

 これこそが英雄である。
 太陽の烈しい光の前に立ってもなお、恥じぬ英雄の姿である。

 むろん、だからと言って宿敵アルジュナが卑劣だったわけではない。
 ただ想う物が違った、それだけだ。
 クシャトリヤとして戦ったアルジュナと、一個の人間として戦ったカルナ。
 そこにある英雄の魂を。
 沈む黄昏と登るかぎろひの狭間に見出せ。
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