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今日も読んで欲しい。あの日の出来事。

  • 投稿者: 髙津 央   [2017年 03月 11日 19時 08分]
 淡々とした筆致で、あの日の出来事を追う。
 大切な人が傍にいて、おかえりと迎えてくれる人が居て、ただいまと帰れる場所がある。
 当たり前だと思っていた日常が喪われ、改めて「大切なこと」に思いを寄せる。

 コンビニ、ホームセンター、ガソリンスタンドなどの店員、原発職員、自衛官……
 きっと、こんな時だからこその職業倫理と、正常性バイアスのコラボ。彼らがいなければ、避難する多くの人が先に進めず、被害はもっと大きくなった筈。

 「それまでの生活」のお葬式。
 心を守る為、敢えて思い出の品や場所に別れを告げる。
 未来へ足を踏み出す為に、敢えて過去を捨てて身軽になる。

 その選択は、もっと許容されていい。

 誰かの選択にダメ出ししてはいけない確固たる根拠――

 日本国憲法 第二十二条
 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

僕らはもっと、簡単に救われていい。

3.11当時から目の届く範囲で繰り広げられた事象をリアルに追体験できる。
文体は静かで、でも重すぎることはない。
起こったこと、そして思ったことが足し引きゼロの正直さを持って訥々と語られている。
過去の傷を抉られるような想いを抱く可能性もある。
でも、その痛みが、私たちの現在地を教えてくれる指標なのではないだろうか。


最後に、作者はこう言っている。
その一言が一人でも多くの人の目につくことを願って———。


『僕らはもっと、簡単に救われていい。』
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