イチオシレビュー一覧
▽レビューを書く〈言葉〉の奔流、という形容が相応しい。一つの文章が次の文章を生み出し、そこに書かれてある内容は逆に気後れし、躊躇いつつも文章を後追いするしかないという、劇作家とはまるで反対の手法で書かれている。言葉の力強さ、必然的な連鎖が、あらかじめ構想されたものを前提とした執筆では到底実現されることのない、それこそ自由な世界を形作ることとなる。田中美知太郎の著作にもあったが、自由とは、無法地帯を指すのではなく、他から侵害されていないということ、あるいは他の支配から解放されてあることを本来的に意味する。小説は何かこのような自由を謳歌するための一種の装置であり、この小説では、それが見事に実践されていると言える。読み手はこの奔流に呑み込まれる他なく、これを経験したことで、彼もまた自らの手で言葉を奔流させ始めるだろう。それが〈物語〉ではなく〈歴史〉だと言えば、多少怒られることを免れ得るだろうか。
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