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計り知れないその隙間に、闇が凝る

  • 投稿者: 鵜狩三善   [2016年 11月 12日 19時 09分]
 城塞都市トリアナンへ左遷されたベイル・マーカス。一等法務官にして世襲騎士たる彼は、怪異譚の蒐集家でもあった。
 人形の祠。嘆きの谷。予見の聖女。子を抱く人面鼠。孕まれなかった水子。石の声。真夜中の大男。腹魚。そして、おころも様。
 マーカスの手により集められた怪談たちは、やがてあるひとつの物語の断片、より大きく激しい渦の飛沫としての顔を見せていく。

 本作はハイファンタジー世界を舞台に綴られる短編怪談集であり、同時にシルセン子爵邸にまつわる魔を解き明かしゆく長編小説である。
 長短どちらの面でも珠玉の物語は、時に恐ろしく肌を粟立たせ、時に寂しく胸を打つ。

 世界は自分の物差しでしか世界を計れない。だから人は自らの見たいものだけを見る。そうして定規の及ばぬ寸尺に継ぎ接ぎの悪魔が横行し、パッチワークの英雄は闊歩する。
 単一の尺度のみでは計り知れぬ怪しの世界を、是非ともにご堪能あれ。

それはまるで恋の如く。恋焦がれ追いかけて、されど決して見ることも”掴まれる”ことも叶わず。汝の名は『怪異』

実話風ファンタジー怪談集。
一つ一つの話が独立していながら徐々に繋がり、恐ろしい世界をよりいっそう禍々しく彩っている。

そしてこの作品の特異性として最たるものが、怪談収集者ベイル・マーカスそのものだ。
彼のモデルは作者の海老さん自身である。怪談が好きで、ひと目見たくて、だけど見えなくて。
悲しいかな。彼は彼が信じるに足る『怪異』に出会えない。目の前にいても『見えない』。
その見えないゆえの疎外感と妙な悔しさが、作者とベイルの怪談への執着・偏執に繋がっている。

人を狂わせる怪談。本物と見間違うばかりの心霊。しかして真に恐ろしいのは人であるのか。
これは、とても怪しく、妙で、禍々しく、時に人を助ける超常なる存在。それに恋い焦がれた男の怪奇記録である。

「余計なことだけど、やめておいた方がいいわよ」

 その忠告は筆者には響かない。
 こんなに楽しいことは止められないからだ。

おはようございます

 朝日を浴びて目覚める時、最初に何を考えるだろうか。
 今日は働きたくないだったり良かった今日は日曜日だとそれほど大したことは考えない。朝日浴びれるような健康的な生活していないよとか別方面に全力疾走しているかもしれない。

 一等法務官ベイル・マーカスは左遷された。
 趣味で出版した怪異耳奇談集も焚書された。

 これはもう趣味を辞めるしかないのだがマーカス先生。衰えぬ幽霊への興味で突き進む。
 幽霊とアンデットは明らかに異なる。後者はゴーレムみたいなものを感じるが前者には理屈が通じない。
 理屈で説明できないものを紐解いていく。幽霊話に埋もれていた真実を掘り起こし人間の罪を見つけ業をけしていくように。

『だんな! うしろうしろ!』

 おつきのエルフ少女たちに見えているモノが先生には見えない。

『引き取り手(どくしゃ)求む』

『マジ怖』『あれが何故見えない』『さすが先生』
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