イチオシレビュー一覧

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痺れるような、ハードな冒険がここにある

 死が臭い立つ迷宮。死んだ者は、誰かが助けねば朽ちるのみ。それを回収するのが死体回収を生業とするダスイーの仕事だった。

 漫然と過ぎていく日々。自分を越えて成長した親友の背中を、羨望混じりに見つめる中で、依頼が舞い込む。

 その親友、英雄グリセルを回収して欲しいと。



 死臭漂う風は、冒険者に届いているか。
 死と灰の恐怖と、隣り合わせの旅は、生きて望みの果てにあるのか。

 ハードで、シリアスなハイファンタジーをお望みならば、ここにそれがある。

 張り付いた呪いを払う為、先へと進む為、鋼の声は雄叫びを上げる。

 いざ、冒険者たち参らん。

 悪名高き魔術師の迷宮へと。 



 気づけば、あなたもそこの虜になるだろう。

誰もがいつか見た、誰もが未だ知らない世界。

 邪悪な魔術師の作り出した、魔物の徘徊する果ての知れない迷宮。それに挑み、金銀財宝、魔法の品を手に凱旋する冒険者。もはや世界観について深く説明するまでもない、古式ゆかしい、超正統派『ローグライクダンジョン物』の登場だ。

『鋼の声で歌って』は、読者がかつて文庫本で、PC画面で、ゲーム機越しで眼前に呼び出し、胸躍らせ冒険した世界を今一度私たちの脳裏に呼び覚ます。迷宮の石畳みの艶やかさ、舞る埃と眉を顰めるカビの匂いまで感じ取れる文章の解像度の高さは、まるで作中の魔術師の御業の再現かと見まごうばかり。間違いなくなろうトップクラスの文章技術といえるだろう。

 しかし、この物語のもっとも優れた点は単純な技術ではなく、それによって描かれる濃厚で肉厚なストーリーにある。

 あえて詳細は語らない。迷宮にかつて胸躍らせたものなら今一度剣をとり、我先にこの門をくぐり給え。

 鋼の声で歌うために!
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