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ーー招待状ーー 悍ましく陰惨な世界と愛おしい魔物の世界へ

  • 投稿者: 羽田 共   [2018年 12月 28日 15時 52分]
読み手の皆様へ

陰惨な導入部は、醜悪な人の本性を暴きだし、魔物の姫へと祭り上げられる少女に希望など微塵もなく、畏怖の念が身に染みて伝わります。その世界を構築している言葉選びが秀逸で、読み手を一気に引きずり込みます。

読み進めると一縷の光が照らしだし希望を胸に秘めます。登場する全ての魔物は慈愛に溢れ、少女に親心、友情、崇拝を抱き守護するのです。

虜になったらもう戻れない。気がついた時には全てを読了している筈。悍ましくも愛おしい、そんな儚い世界へと皆様を御招待させていただきます。

少女に愛を、語り部に喝采を

恐怖と絶望に蹂躙された少女は、狂気を供に魔の森へと迷い込む。
「語り部」の穏やかな語り口とは裏腹に、物語の始まりはあまりにも衝撃的です。控えめな描写にもかかわらず、なまじ文章が流麗なだけに、おぞましい出来事はするすると脳内に注ぎ込まれ、脳裏に結ばれる情景は目を背けてしまいたくなるほど。

ですが、仄かな明かりがひとつ、ふたつ、と地下迷宮の中に灯り始めるにつれ、みるみるこの物語の虜となってしまいました。
闇は光に、不幸は幸せに、恐怖は愛に。白虎や山羊頭といった魔物達が本当に素敵で。いわゆる冒険者として相対したらば、死ぬほど恐ろしい敵のはずなのに。
人間と魔物、異なる二つの価値観のはざまで穏やかな日々を送る「雑種の少女」の可愛いこと。

やがて運命の歯車が軋みながら回り、物語は容赦なく終焉を迎え、そうして気づくのです。誰もが――読者であるはずの自分さえもが――物語の登場人物となっていたことに。
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