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ここではない何処かを目指して。

  • 投稿者: 橘 塔子   [2017年 01月 04日 23時 16分]
 豊かで平穏であるはずのその国では、今年、いつまでたっても雪が降りやまなかった。塔の上に居座った冬の女王が春の訪れを拒んでいるから。春を呼ぶには誰かが塔に上って女王を説得しなければならないが、みんな尻込みをするばかり。雪に埋もれてゆく国の中で、ようやく一人の若者が手を挙げた。自分自身のある望みを叶えるために――。

 『冬の童話』公式設定を大胆に解釈した、人間の本能についての寓話。
 大多数が満足する平和な日常にいても、未知の世界を求め続ける人間は必ずいる。楽園に背を向けるように、方舟から飛び立つように、好奇心は危険な外界を目指す。それは時として本人を滅ぼしもするが、人間という種を腐らせないためにプログラムされた宿命なのかもしれない。

 若者が塔の上で見た意外な真実――彼の行く末を含めて、その先の想像が膨らむ作品だった。
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