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深くて重い永遠のテーマ

  • 投稿者: 名無し   [2017年 01月 30日 13時 46分]
真冬の登山中に遭難し、食糧も尽き、このままでは誰一人生き残れぬ状況であったから、怪我をして足手まといになった人間を喰らって生き延びた。

昔、そんな事件だか都市伝説だかを聞いた覚えがあります。

このお話は上記の都市伝説の様に『とある極限的状況に置かれた場合人間は何処まで他者に冷酷になれるのか』言い換えるならば、自分が生き延びる為ならば何処まで他社を犠牲に出来るのかを精緻に描いていると思います。

生きる為他者を手にかける事に対する迷い・苦悩・葛藤、それらの全てが見事に描ききられており、読んでいる者にも、まるで今自分が同じ状況におかれている様な、そんな錯覚を与えます。

今の日本は法治国家である為、法律が殺人を禁止している以上、殺人を犯せば罪になります。

しかし、では、法律の光もささない極限に置かれた時、自分ならばどの様な行為をとるのか。

色々考えさせられる作品でした。

極めて利己的かつ主観的であるにも拘わらず、世の理には平等や公正といった客観性を求めるこの物語の傲慢さは、己を顧みず、本来の法律を歪に解釈したことの危険性を示唆している。

  • 投稿者: 羽鳥小鷹   [2017年 01月 30日 10時 35分]
冒頭から、カルネアデスの板をモチーフにした場面展開で物語は始まる。

自己の生存が絶望的である特殊な状況下において、人は初めて、ひとりの命と、その他大勢の命を秤にかけることが許されるが、この物語の男は、そうした極々例外的な事例を、自己正当化のために恣意的に拡大解釈した末路を描いている。

この男の行動理念は、極めて利己的かつ主観的であるにも拘わらず、世の理には平等や公正といった客観性を求めるその傲慢さは、己を顧みず、本来の法律を歪に解釈したことの危険性を示唆している。


何にせよ、法律や規律を笠に着て、それらを自己正当化する手段として用いることの危険性を、改めて感じさせてくれる作品だ。
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