イチオシレビュー一覧

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憎しみも愛も、ふたりを救わない

人間と魔族の戦争を背景に、運命に翻弄される兄妹の物語。元は仲が良かったはずのふたりは、特殊な産まれという事情により悲劇に見舞われ、やがて袂を分かつことになる。

ファンタジー的な要素は多く戦闘シーンも書かれながら、メインで扱うのは普遍的な人間の心だ。誰かを愛したり憎んだりする感情は、命のやり取りの場である戦争でこそ強調される。

互いへの憎しみしかない兄妹も、それぞれに愛した人がいた。けれどそれすらも運命に組み込まれて、戦いを激化させる燃料にしかならない皮肉。この構成は素晴らしかった。

このふたりが殺し合うこと自体が悲劇だが、同時に避けようがないことだったとも思えた。ふたりの運命は最初から狂っていた。それが物悲しく、しかし美しい物語だった。

場面が変わっても、様々な色の辛さを見せるダークファンタジー

  • 投稿者: 柊 楓   [2021年 04月 08日 12時 38分]
この物語は、当時の気持ちと未来からの想起の二面のの主観で進んでいきます。何も知ることの出来ない当時。知りはすれど何も出来ない未来。当時の辛苦と未来の後悔が、この物語に様々な様相を与えています。様々とはいうのは、ほとんどの場面で主人公の気持ちは沈んでいる、その理由や抱く苦しみの種類が様々であるのです。それに加え、物語の一人のキーマンの心情が読めないことで、このダークファンタジーはとても興味深く、一層暗くなっています。

無慈悲な運命に翻弄された兄妹の話

  • 投稿者: 伊賀海栗   [2021年 03月 05日 18時 01分]
何か不幸があったときに「あの時こうしていればよかった」とタラレバを口にするのは人情というものです。
それは読者の視点でも同じで、内心で「あのキャラが〇〇だったら」とIFを思い浮かべながら読み進めることも少なくないのではないでしょうか。

本作においては、それができません。圧倒的な運命力に翻弄され、すれ違い、悲しみや苦しみを背負っていく兄妹に、読者はタラレバで心の平穏を求めることも許されないのです。
逆に言えばそれだけ緻密な構成と文章力があってこそのストーリーだと思います。
加えて、淡々と語られる前半部と、主人公の心境に変化が訪れてからの熱のこもった描写、そしてラストの穏やかな筆致という変化にも舌を巻きました。

怪奇やホラーではない、悲劇的展開という意味でのダークファンタジーです。それに抵抗のない方であれば是非お勧めしたい一作です。

運命には抗えない

  • 投稿者: 白河律   [2021年 01月 31日 09時 40分]
この作品は、流れてゆくままに生きた者達の物語である。
人に出来る事は限られている。物語に登場する英雄の兄でさえ。英雄と称えられて等しい彼も、過去の呪縛の中に囚われていただけだった。
主人公である妹さえ、何も掴めばないまま流れさるだけだ。
人に出来る事は限られている。これはそうしたリアルさを持ったファンタジー作品である。

雰囲気を感じられるダークファンタジー

  • 投稿者: ろべると   [2021年 01月 31日 01時 39分]
【ネタバレ注意】
まず1話目を読んだときに文から伝わる世界観に圧倒されました。言葉回しがうまく地の文は第三者視点でもなく現在の少女目線でもなく成長した後の少女が昔の自分を達観して表現しているように感じ、とてもいいなと思いました。世界観故にシンプルな「黙れ」という表現がとても重く、怖い印象を受け少女と同じように恐怖を感じました。

簡潔に言うと、ソフトな地獄

  • 投稿者: λⅢ   [2020年 11月 27日 19時 37分]
数時間で読めてしまう中編作品といったところでしょうか。映画や舞台を楽しむノリで読めます。作風上、気取った表現も難しい表現もない文体は読みやすいです。

ただし、内容は鬱展開です。

主人公が弱者で被虐者で、主体性が欠落してて、自棄と狂気に走ります。切なさをまとった鬱なので、好きな人は好きでしょう(僕は好きです)。

本編が短く、かつ主人公以外掘り下げられない作風なので、ゴリゴリのスペクタクル・ハイファンタジーが読みたい人には物足りないかもしれませんね。おとぎ話を楽しむ感覚がちょうどいいでしょう。

辛いのに読んでしまう

両親を殺され家を焼け出された兄妹は、二人で生きていくことになるのですが、辛い境遇の中で二人の関係は歪んで行ってしまい……、というお話。

兄妹で殺し合うストーリーで、関係の歪み方がえぐいです。心情の移り変わりが、双方仕方ないというか、「うん、まあ、そうなるよな……」という感じです。

兄妹で、兄が妹を守りながら頑張る、っていうのはいろんなところで見かけるある種の王道みたいなところがありますが、でもそりゃあ辛い境遇で心の余裕がなければストレスが溜まるのは当然だよなぁと思いました。

終始辛い話なのですが、グイグイ引っ張られるように読んでしまいました。

不思議な魅力を持ったダークファンタジー…!

  • 投稿者: コナカナ   [2020年 07月 20日 02時 52分]
 ダークファンタジーというジャンルの作品はほかにもたくさんあると思いますが、中でもこれほどまでに不思議な魅力を持った作品は少ないのではないでしょうか。
 序盤には数多くの伏線と主人公の懺悔があります。それは一つ一つがキーポイントとなっていて、読み進めていくうちに、彼女の懺悔の意味が分かることでしょう。運命に翻弄されていくうちに彼女が犯してしまった罪は、本来は絶対に許されるべきではないのかもしれません。
 それだけでなく、この作品にはどこか妙な「魅力」を持っています。それは先の読めない展開なのか? 個々のキャラクターたちの持つ個性なのか? いや、おそらくはこの作品あるそれら全ての要素が複雑に絡み合って、一度読みだしたら止まらない稀有な魅力に昇華させられているのでしょう……!
 さあ、これを読んでいるあなたも是非、主人公の罪の記憶を頭に焼き付けてください。

手軽に読める本格ダークファンタジー

中途半端な情けは無い、徹底して「ダークファンタジー」というジャンルに従って描かれた作品。
ダークファンタジーと言うと、壮大な群像劇や硬い文章を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、この作品にはそういった敷居の高さはありません。
これはあくまでも、兄と妹の物語。そして、とにかく分かりやすく、端的で、読みやすく工夫された構成なので、じっくり読むだけでなく速読で手軽に楽しみたい方にもオススメできます。
誰でも手軽に楽しめる本格ダークファンタジーとして描かれる兄妹の壮絶な人生。それを、手記を読む感覚で楽しんでいただければと思います。

人のつながりと別れを描いた悲しい物語。

  • 投稿者: 退会済み   [2020年 04月 04日 21時 05分]
管理
この作品にはご都合主義で現れてくれるひ―ローは存在しない。あくまでも最初は何もできない娘チェント。しかし、その力を地道な訓練によって開花させやがては肉親である兄を殺そうという復讐の物語になる。
最近のファンタジー小説はハッピーエンドを迎えるのが常なのにそのような風潮を意に返せず書き続けきった作者様の筆の力に感嘆しました。

美しい悲劇の物語でした。
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