イチオシレビュー一覧

▽レビューを書く
<< Back 1 2 3 4 Next >> 

一五一四キロメートルに向き合う

  • 投稿者: 尾松傘   [2022年 05月 10日 21時 56分]
主人公の磯辺とヒロインのRの間にある“一五一四キロメートル”。
この残酷な隔たりは「はるか遠く」などありきたりな言葉では表現出来ないでしょう。
本作で使われている言葉はどれも他の言葉では替えの効かないものです。
私は筆者の文才よりも、筆者の言葉や人の内面そして命に真摯に向き合う姿勢を称賛したいと思います。
この作品を読めば、きっとあなたの心も揺さぶられ、“あの日”の出来事と自身の内面とに向き合おうと思うはずです。



人の時とは、存外簡単に止まる

  • 投稿者: 古口 宗   [2022年 01月 24日 23時 23分]
シュルシュルー
シュルシュルー
余韻を残す空気の振動に、そっと心を動かされたのなら。貴方は文字の向こうの人を想える人でしょう

この物語は、一人の女性が数年前に廃業したホテルについて、男性に取材を行う所から始まります。過去を思い出し質問に答えていく男
記憶はハッキリとしており、受け答えも丁寧でサッパリ。ですが、二話に入り視点が彼へと移ると、印象とは変わった内面が読者に伝わってきます

彼が取材では語らなかった、一人の少女の存在。それが彼の人生に、どれほどの物をもたらしたのか
最初に言っておきます。この作品は貴方の心に重くのしかかる問を、責めるような悔しさを与えるでしょう。しかし、それに目を逸らさない事が、青年と少女に報いる事でしょう

深く、暗く、溺れるように。圧倒的な文章と命題で描かれた物語を、体感する準備は出来ましたか?
それでは、カプセルに手紙を込めて
シュルシュルー
シュルシュルー

あなたには、シンバルの音が聴こえていますか?

本作は海沿いの街にひっそりと佇んでいたファッションホテル『ピシナム』で働いていた青年が、かつて働いていた時に出会った少女との出来事を思い返すところから始まります。その後に繰り広げられるのは、顔も合わせないままに行われる手紙のやり取り。二人はその中で、恐る恐る互いへと踏み込んでいきます。

青年の彼に内包された苦悩や不器用さ。少女の秘密と、ある出来事によってその内側に宿ってしまった、強烈な孤独。それらが圧倒的な表現力によって書き表されており、気がつくと読み終えておりました。没頭してしまったこの感じは、まるで海に引き摺り込まれてしまったかのような気分です。
ラストの展開は怒涛ながらも、「何か」があったという余韻に浸れるような。もちろん言葉にすることもできるのでしょうが、それは是非、読んでみて、そして感じていただきたいものです。

静かな海から始まりますーー

  • 投稿者: 退会済み   [2021年 12月 24日 15時 01分]
管理
退屈な冒頭ですーー。

……ちょっぴりエッチいラノベを想像していました。
なので(?)文字を飛ばすためスマホの画面を指がシュルシュルーと素早く動きます。
なんの感情も動くことなく、私はこの物語をただ読み飛ばして……。
ヒロインが出てきても物語に入り込めず、このまま神速で終えてしまおうか、と考えた矢先に、

『ぜんぶ、流されたの。海に、ぜんぶ』

という言葉に息が詰まりました。
突如としてフォルティッシモ(できるだけ強く)というテンポに変わり、そこから明かされる命の意味に胸を抉られました。
……物語は読み手の感情を揺さぶりますが、私は、揺さぶられるどころか、見事に胸を抉られたのです。
やがて、二人は結末を迎えます……。

読後は『もっと物語に触れたい!』と、筆者のあとがきを食い入るように読み込んでしまいました。

結末の余韻に浸ったあと、一行の意味を考えながら再読したい、そんな物語ですーー。

自然と目から涙があふれる作品です

ピシナムというファッションホテルでの過去語り。

直接触れることのないホテル従業員の磯辺と客の女子高校生R。

ピシナムでは客と距離を保つため、必要以上の関わりを持たない。顔を見せず、言葉も交わさず、ただ鍵の受け渡しだけをする関係の二人。ある日、二人は気送管での文通を始める。

その文通は二人がお互いを知り、考え、心を通わせる機会を与える。

その中で次第にRの不純な行為、奇妙な言動の意味が明らかになっていく。だけど二人の心の距離は一五一四キロメートルよりもきっと遠い。


3月11日の自分は磯辺と同じでした。モニター越しに見る凄惨な光景に心を痛めるフリをしながら、どこか他人事で。
そんな自分自身を知って心苦しく、そんな事を思うのさえ自分の為ではないかと感じさせられた苦笑い思い出。


これを読むあなたは磯辺側か女子高生R側なのか。
ぜひ一度この作品を読まれて感じてください。

心と記憶に残る作品でした。

  • 投稿者: いく   [2021年 12月 04日 07時 36分]
元々読書をするのが好きで、ひょんな事からこの「海のシンバル」と言う作品を見つけて読み始めました。
いざ読み始めると一気に物語の世界観に吸い込まれていき、次々にテンポ良く進んでいく展開に夢中になりました。
高い文章力はもちろんなのですが、何より著者様の独特な表現力に感心する方も多いのではないのでしょうか。
私はすっかりファンの1人になってしまいました。
「海のシンバル」と言う物語の中に絶妙なバランスで、フィクションの箇所があるからこそ、ここまで完成度が高い作品が生まれたのではないのかと思います。

読み終えた後に直ぐに2度目、3度目と読みたくなるそんな素敵な作品です。
素晴らしい作品でした。

冒頭で読むのをやめないで

 純文学とは、物語を通して言語外の感覚を伝える芸術だと思いますが、この小説はまさに、その真骨頂とも言える作品でした。
 いくら言葉で語り尽くそうとも語り尽くせない大切なことを、言語外のメッセージで強く語りかけてきます。

 何度も繰り返し読みたくなる作品です。2度目に読み始めたときには、初見のときとは全く違う景色が見えています。

 純文学の持つ鬱々とした空気感が好きで無いという人も、現実を知る意味で、是非読んでもらいたいです。冒頭で切らないでください。

 中盤からの息を呑む展開をお見逃しなく!

雰囲気があり、惹き込まれる作品でした。

  • 投稿者: 詩音   [2021年 11月 15日 01時 14分]
小説ならではのフワッとした雰囲気と現実が混ざっていて、
惹き込まれながら読むのですが、現実もすごく考えさせられる作品でした。

ノンフィクションではなくて、フィクションの部分があるから読みやすくなっているように感じました。

毎日ひたすら忙しくしているとこうした大事なことを忘れそうになるので、今回作品を読ませていただけてよかったです。

ぜひ色んな方に読んでもらいたいです!

すばらしい小説でした。

ひたすら書籍化を望む。静謐で、傷つくことを厭わない物語

  • 投稿者: スズ   [2021年 11月 14日 14時 05分]
命を削るかのように、洗練された物語でした。

小説家になろうというサイトの中では、確かに異質な物語かもしれない。

それでも、ラブホテルで行われる気送管ポストでのやり取りに私たちは目をそらしてはいけない。

私が言っていいことではないのかもしれません。

ですが、読んでほしいのです。

この海のシンバルには、その価値があります。

15000人という命を、もがいて、向きあった作品を、どうか、あなたの本棚に。

書籍化を、ずっと、お待ちしてます。

唐突に引き込まれた先に待つのは誰の物語か――

  • 投稿者: 退会済み   [2021年 10月 15日 03時 02分 ()]
管理
自分語りで申し訳ありませんが、私の生涯のテーマは「自分の物語を歩む」です。しかし、初めてこの作品を読ませていただいた7/23時点ではまだ朧げなままでした。

先ほどTwitterでふと本作を目にし、自分も同じだったのだと思うと、居ても立っても居られずにこれを書いている次第です。

人は忘れてしまう生き物で、失われたものは二度とは戻らない。それでも、忘れてはならないものは誰にでもあるかと思います。

時には美化され、時には腫れ物のように扱われ、やがてはそれぞれの真実を知る者もいなくなる。人間の一生は短く、これ自体はどうすることも出来ません。

それでも、残酷で怠惰で甘美な時間を風化と呼ぶのならば、語部となるに足り得るこの作品にレビューを残すことで自分も抗ってみたいと思う。
<< Back 1 2 3 4 Next >> 
↑ページトップへ