感想一覧

<< Back 1 2 3 4 Next >> 
[良い点]
静かな狂気を帯びた語り口が凄まじく、ひたひたと恐怖を覚えます。究極の純愛モノとも言えるのに、なんでこんなに怖いのか。語り手に策略があるならあるで怖いけれど、これが全部真っ正直な告白ならなおさら怖いですね。
[一言]
皆さんの感想に目を通していて気づいたのですが、アンハピ企画作品だったのですね。しかし語り手はむしろ幸福を手に入れていたのかもしれないとも思えます。彼女にとっては「夫に愛されること」よりも「他の女を一途に愛する夫をこちらも一途に愛すること」の方に価値を見出してしまったように感じました。アイデンティティとも言えるかも。相思相愛の代償行為なら切ないし、本心からそれを望んでいるのなら業が深いことこの上ないですね。
この作品、夫もしくは愛人の目線で描けばまた違った風景が見えてきそうです。彼女は本当に放置された本妻だったのか、自分で思っているような存在感のない女だったのか……秀逸な「藪の中」ミステリの第一章のような味わいでした。
  • 投稿者: 橘 塔子
  • 女性
  • 2019年 11月28日 22時30分
橘 塔子様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。

ジャンルとして「異世界 恋愛」を選んでいるのですが、「ホラー」とかでも大丈夫だったんだろうなあと正直思います。ただあくまで表面上さらっと流せば純愛、よくよく考えると狂愛ということで二重の(考え方によってはそれ以上の)物語に受け取って欲しかったため、こんな形のジャンル設定にしております。ジャンルを「ホラー」「ヒューマンドラマ」「純文学」とした場合、最初からみなさんにうがった見方をされがちなので。


愛情のあり方って怖いですよね。
彼女の語りが皮肉ですらなく純粋な愛情なのだとしたら、旦那さまは果たして嬉しいのでしょうか。それとも恐ろしいのでしょうか。とりあえず、「取り返しのできないことをやっちまった」感だけはひしひしと残ると思われます。

もともとミステリは苦手なので「信頼できない語り手」というタグを使う機会がなかなかありませんでした。今回アンハピエンの恋企画ということで、こういうのもアリだろうと踏み切った形です。
おっしゃる通り、語り手は幸福を手にしているように思います。それは、「他の女を一途に愛する夫をこちらも一途に愛すること」に価値を見出したからかもしれませんし、「他の女にうつつを抜かす夫を思いっきり傷つける」という復讐が可能だったからかもしれません。あるいは彼女はすでに現実と妄想の境目を生きているのかもしれません。ただ彼女は、最後の場面できっとそれはもう艶やかな笑顔を浮かべているに違いないのです。

この作品、夫もしくは愛人の目線で描いた場合、ご指摘の通りまったく異なる語り口となります。それぞれが無意識のうちに自分の理想を求め、罪悪感から目をそらしたのだとしたら。一体何が、そして誰が正しいと言えるのでしょう。読み終わった後のもやもやを楽しんでいたければ、嬉しいです。

感想、ありがとうございました!
[一言]
 拝読しました。
 読了して、思い浮かぶ様々な可能性に見事に惑わされております。最後に傷をつけたかったのか、それとも嘲弄しただけなのか。そこに愛はあったのか、憎悪が為させた別離の前の晦ましなのか。
 タグの「信頼できない語り手」のなんと際立つことよ。いやはや、芥川の『手巾』を連想する読み心地でした。

 私的には語り手が神父を招いたのだ告解室であればよいと、底意地悪く考えたりもしています。
 告解には守秘義務が発生して外へは持ち出せないそうですから、一切蒸し返すことすらできず、神父様は一生涯もやもやしてくれることだろうと思うのです。
鵜狩三善様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。
『手巾』を連想していただき、何とも恐縮しております。あちらは武士道のまま綺麗に終わらせず、ちくりと皮肉を置いていくのがまた効いていますよね。ぶるぶると震える握り締められたハンカチがいつまでも残像として残っています。

憎たらしい。愛おしい。
傷つけたい。傷つけたくない。
離れたい。離れたくない。

矛盾するそれぞれの感情は、ある一定の場面においては彼女にとっての「真」であることが、余計に苦しみを深くしているように思います。「貴族とはこうあるべき」「女とはこうあるべき」という枠組みにとらわれたとがゆえの悲劇かもしれません。

>語り手が神父を招いたのだ告解室であればよい
誰にも語ることのできない辛さですね。分かち合うことでひとは互いの距離感を詰めることもできるわけですが、大きな秘密と苦しみを背負わせることまで彼女が狙ってやっていたのだとしたら……。やはり何よりもしたたかなのは、女性の方なのかもしれませんね。

感想、ありがとうございました!
[良い点]
おじゃまいたします。
一人称の語りが見事です。
悲しいぐらい一途で、情熱的ですね。
途中まで旦那さまの存在を誤解していたので、最後の一文に腰が浮きました。
[一言]
この後の二人がどうなるのか、想像力が膨らむよい話でした。ありがとうございます。
  • 投稿者: りすこ
  • 2019年 11月28日 20時11分
りすこ様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。
今回タグに「信頼できない語り手」というものをつけているのですが、そのまま読んでも、深読みしても、色々と結末を想像できるような作りにしています。そのため、旦那さまの存在の部分で、驚いてもらえたならとても嬉しいです。

一人称というのはとても嘘つきなので、悲しみや怒りを笑顔で語ることもありますし、純粋なのか皮肉なのかも読み手が判断するしかありません。それでも彼女が旦那さまを心から愛していたことは間違いようのない事実で、悲しいぐらい一途という言葉が心に沁みます。

おそらくは別離を選ぶしかないふたりなのですが、がっつりえぐられた旦那さまのその後はどうなるのでしょうね。今まで通りにはなれない辛さ……。

感想、ありがとうございました!
[良い点]
おじゃまします

なんだか理解できるようで物哀しいお話でした
自分を犠牲にしてでも愛する人に幸せでいてほしいというのは究極の愛の表明ですね

旦那様はきっと疑問と後ろめたさでやってきたのでしょうが、最後にわかったところで彼女が孤独に過ごした3年がなくなるわけでもないし、旦那様の無責任な態度が肯定されるわけでもないというのに感傷に走ってしまうのは人間あるあるだなー、とおもってよみました
これで互いにとって互いがある意味永遠の人になったでしょうね
旦那様の心に消えないささくれという楔を打てたことで、彼女の勝利だな、とおもいました
つこさん。様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。

無償の愛とはまた異なりますが、愛する相手だからこそ耐え忍ぶ女性というのはわりと多いのだろうなあと思います。愛しているならば我慢できるはずというような世間的な目があることも大きいかもしれません。

旦那様が能天気で彼女のことを一切顧みないほどのダメ人間や、すべてを完全に割り切れるほどの合理主義者であれば傷つかないでしょうが、おそらくはごくごく普通の人間でしょう。たぶん人間としては悪人ではなく善人でしょうから、語り手の言葉を聞いて震えることになるんですよね。最後にがっつりえぐられたおかげで、愛妾さんとの今後にも大きくヒビが入っただろうなあなんて思います。

最後、舞台を降りる語り手はそれはそれは美しい笑顔だったことでしょう。
勝利を得たからこその会心の笑みだったのかもしれません。

感想、ありがとうございました。
[一言]
こういう信頼できない語り手の物語は、やはり面白いですね!!
現実でも同じ事柄について話しているのに、AさんとBさんでは言ってることが真逆なんてことがよくありますし、結局人間は自分にとって都合がいいように物事を解釈する生き物なのかもしれません。
その点ではこの主人公がどこまで真実を言っているのかは、誰にもわかりませんよねw
そこが本作の面白いところですが!
そして、これは持論ですが、男はどれだけ腕力や権力を振りかざしたとしても、結局根っこの部分では決して女性には勝てないと思っていますw
間咲正樹様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。
ミステリーは書けませんが、こういった信頼できない語り手の物語は大好きです。

間咲さんもおっしゃるように、現実世界でも実際によく起きているできことなんですよね。
学校でも会社でもあるのですが、やはりそれぞれの言い分の差異を実感するのが男女関係です。女性の言い分と男性の言い分がまるで食い違っていて、一体何が本当のことなのかと頭を抱えてしまったこともあります。

本人たちからすれば意識して嘘をついているわけではないんですよね。あくまで彼らからは世界がそのように認識されていて、彼らの現実はそれぞれの物語として紡がれる。結果として全く異なる物語が同時に存在することになることを思えば、人間ほど罪深く、また興味深い生き物はいないのかもしれません。

本作の語り手も、これほどまでに朗々と語りながら最後は舌を出して笑っているのかもしれません。そうですね、立場的に上にあるように見える男性は、こんな風に女性に振り回されて生きていて、意外と不自由な人生のようにも思えます。(自分の実母、正妻、愛妾それぞれの言い分を聞く作業は、なんとも骨が折れそうです)

ご感想、ありがとうございました!
[一言]
アンハピ企画でまいりました、星影です!

以下ネタバレ含みます。


旦那様が神父様とわかったときは、語りの女性の繊細さとしたたかさを感じました。

自分が正妻で、愛しているのに、愛されない。
親からは仕方のないことだと言われているとはいえ、本来なら認められないはずの愛を受けている女性や子どもたちを間近で見るのは、苦しかっただろう、と思います。

それを最後に一人芝居のようにして語ったのは、大勢の報われない正妻の中の一人として忘れてほしくなくて、旦那様の心に傷を残しておきたかったのかな、と感じました。

これは旦那様や妾視点で見るとまた、違ったお話になりそうですね。
ただ、どこから見ても、それぞれの立場や地位が、全ての登場人物をハッピーエンドにすることを許さない。
報われないお話で切ないなぁと感じました!

いろいろと妄想をめぐらせられるすてきなお話をありがとうございました!
  • 投稿者: 星影さき
  • 女性
  • 2019年 11月27日 18時50分
星影様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。

語り手の女性は、矛盾に満ちた存在です。
か弱くかつしたたか、繊細かつ豪胆、無垢かつ計算高い。
とはいえ、純愛であり狂愛であるように、彼女の心情はその場その場においてはある種の「真」となっております。

ささくれのような傷どころか、別れ際にがっつり相手の心をえぐりとり、彼女は艶やかな微笑みを浮かべていることでしょう。まさに一人芝居の終焉、舞台を降りる女優としては満足のいく出来だったのではないでしょうか。

おっしゃる通り、旦那さま視点や愛妾視点から見ると、また異なった切り口の物語となります。
そして結局のところ、誰が物語を語ろうとも「めでたし めでたし」にはならないのです。
アンハピならではの、もやもや感を楽しんでいただければ幸いです。

感想、ありがとうございました。
[良い点]
モヤッとする!
モヤッとする!!
モヤッとするううぅぅ!!!

神父様=旦那様という事実がわかった時点で、一気に作品に対する価値観が昇華されました。
なんというオチでしょうか。
鳥肌が立ちました。

最後まで「神父様に語らっている体」を崩さないようにしているヒロインが哀れで仕方ありませんでした。

そして、これ、男にとってはかなり生き地獄だなーと思いました。
愛する相手とは結ばれず、結ばれた相手からは一方的に愛され、拒絶される。
今後、すごく後ろめたい生き方をするんでしょうね。

企画のテーマらしい素晴らしい作品でした。
  • 投稿者: たこす
  • 2019年 11月27日 14時06分
たこす様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。
モヤモヤしていただけて、大変嬉しいです(嫌な作者です)
このモヤモヤや胸に残る後味の悪さと物語の余韻が、アンハピものの醍醐味ではないかと考えております。(私自身、皆様のバッドエンド、メリバ、ビターエンドな作品を読みながら、「う、う、うおおおおおおお」と打ち震えることもしばしばです)

神父様に話しかけるという形でしか、「彼」と話ができない彼女。その一貫した態度は、彼女が自分自身の矜持を守るために必要なものだったのでしょう。あえて互いの間に線を引き、相手を踏み込ませないことでしか、自分を守れなかった弱い女性です。

一方でだからこそ、相手に的確な痛みを与えることに成功しているのですよね。
すべてを許しているかのようで、絶対的に拒絶している彼女は、苦しんできたぶん最後に一矢報いたようにも思えます。

愛しているという言葉は、呪いのようでもあり、祝福のようでもあります。とても幸せにはなれなさそうな彼らですが、そんな雁字搦めのどうしようもないやりとりで、人生というのは構成されているのかもしれません。(過去を反省しなければまた同じような過ちを繰り返すでしょうし、過去に囚われているだけでは前に進めないという八方塞がりな状況です)

感想、ありがとうございました。
[一言]
なかなかに好きな雰囲気なお話だわと思いながら読んでいたのです。
そしたら最後で神父様が!
「おいらこら神父。貴様の信仰はその程度か」と唸ったのは私だけではないはず。

ええ、私は物語をまっすぐ読んだ組の人。
物語を素直に読むと、神父様がスパダリ役になって新しい恋物語の始まりの可能性を感じましたの。
神父様が手に入れられなかった旦那様と同じ香りっていうのもいいじゃないですか。
神父様に対する想いが複雑になって。

けど、そうか、神父様=旦那様なんですね。
そうなると、作品タイトルは語り手さんだけの気持ちじゃなくて、旦那様の気持ちでもあるんじゃないかなって思いました。

見る角度を変えると色んな解釈のできる面白い描き方ですね。
  • 投稿者: 夕立
  • 2019年 11月26日 22時31分
夕立様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。

>「おいらこら神父。貴様の信仰はその程度か」
ツッコミありがとうございます。道ならぬ恋ほど燃え上がるものですよね(キリッ)

>神父様がスパダリ役になって新しい恋物語
スパダリ好きの私としては、夕立さんの感想にもんどりうつしかありません。といいますか、スパダリ神父といえば、夕立さんの「銀行家の娘とエリートの徒然日記」のベリザリオなのでは? ああー、ベリザリオー!!!(結末を思い出して悶絶)苦しくて、死んでしまいます。

>神父様=旦那様なんですね。
すみません、感想欄で私がでしゃばり過ぎてしまいました。二重、三重に読むことができるように物語を構成した以上は、作者は口をつぐむべきだったかと反省中です。

ただ、表の物語と裏の物語、どちらを最初にみなさんが思い浮かべたのか、どんな物語をイメージされたのか、私自身お伺いすることができてとても面白いです。

>作品タイトルは語り手さんだけの気持ちじゃなくて、旦那様の気持ちでもあるんじゃないかな

信頼できない語り手だからこそ、物語をいくつにも想像することができますよね。もしかしたら、語り手の女性は寂しげに涙を流していたかもしれないですし、あるいは、舞台に立つ女優のように、艶やかに微笑んでいたかもしれません。まさに女は天性の役者といったところでしょうか。

感想、本当にありがとうございました。
[一言]
いつから彼女は壊れてしまったのでしょうね。
人間なんて数ヶ月あれば簡単に壊れてしまうものですから、嫁に来てすぐということもあったかもしれませんね。
きっと彼女はもう戻ることはないと感じました。
  • 投稿者: 退会済み
  • 2019年 11月26日 15時14分
管理
斎藤秋様

ご高覧いただき、まことにありがとうございます。またレビューもありがとうございました! 少し先になりますが、次回の活動報告でぜひ紹介させてくださいね。

彼女は自分の心を守るために、現実をこのような形で受け入れるしかなかったのでしょう。憎んではならない、羨んではならないと言い聞かせることがなければ、あるいは誇りやきんじなど投げ捨てて泣き出してしまえば、もっと心は軽かったのかもしれません。

彼女はもう戻ることができないからこそ、「彼」の心に傷をつけたかったのだろうなあと思います。それを達成できて、彼女自身、満足しているように思います。

感想、ありがとうございました。
[一言]
良い意味で、宙ぶらりんに放り投げられたようなぐるりと世界の回転するようなゾワっと感!
ただただどろどろの感情の渦に溺れました。
信用できない語り手。

彼女の見たことにしておきたい真実はひどく脆く、触れることも曲げることも、もちろん暴くことにも耐えられない。
誰も寄せ付けない頑なに揺らがない信念は弱さゆえのもの、そう感じました。

にける❤️にけら様

信用できない語り手による、どこか怪しく揺らぐ語り。最後の瞬間に、足元がぐらつくような違和感を感じていただけたようで嬉しく思います。

彼女の心はあまりにも繊細で、それこそ触れれば壊れてしまう硝子細工のようなものだったのでしょう。彼女の頑なさは、おっしゃるとおり弱さの裏返しであります。

世界を壊すのは、語り手のエゴなのか。あるいは「神父」のエゴなのか。実はそれぞれに身勝手な登場人物たちは、これからもやはりエゴイスティックなまま、もがき続けます。

感想、ありがとうございました!
<< Back 1 2 3 4 Next >> 
↑ページトップへ